2016年11月27日
ヒッチコック/トリュフォー 原題:Hitchcock/Truffaut
監督:ケント・ジョーンズ
出演:マーティン・スコセッシ、ウェス・アンダーソン、デビッド・フィンチャー、オリヴィエ・アサイヤス、ピーター・ボグダノヴィッチ、アルノー・デプレシャン、ジェームズ・グレイ、黒沢 清、リチャード・リンクレイター、ポール・シュレイダー、ボブ・バラバン(ナレーター)
1962年、フランソワ・トリュフォー監督が『突然炎のごとく』の宣伝でニューヨークを訪れた折、ある批評家に「影響を受けた監督はヒッチコック」と答えた際に冷ややかな反応をされる。敬愛する巨匠に正当な評価をと決意した瞬間だった。トリフォーはヒッチコックに長い手紙を書いてインタビューを申し入れる。
ヒッチコックの63歳の誕生日の日から1週間、通訳ヘレン・スコットの手助けを得て50時間におよぶインタビューを敢行。1作ごとにテクニックと映画理論を紐解く解説。
4年後の1966年、「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」がフランスとアメリカで同時出版される。ヒッチコックを真の映画作家として世界に認識させることになった伝説の映画本である。
本作は、この映画本誕生を巡るドキュメンタリー。ヒッチコックを敬愛するマーティン・スコセッシ、黒沢清など10人の監督たちにも取材。トリフォーが試みたヒッチコックの映画術の解明を、また別の視点で紐解いている。
ヒッチコックといえば、映像美溢れるサスペンスの巨匠。今や、その評価は定着しているけれど、本作を観て、ヒッチコックがハリウッドに呼ばれてイギリスから渡ってきて、数々の名作を作り出したにもかかわらず、それほど評価されていなかったことを知りました。
ヒッチコックは、トリフォーからの手紙に涙したそうです。なにしろ「インタビュー本出版の暁には、あなたが世界中で最も偉大な監督であると、誰もが認めることになるでしょう」と書かれていたのですから。
本作には、1962年当時のヒッチコックとトリフォーの二人の貴重な会話も出てきます。子どものころ、ヒッチコック劇場でよく見ていた太っちょのおじさまを懐かしく思い出しました。ヒッチコック作品の名場面の数々も出てきて、嬉しい1作です。(咲)
2015年/アメリカ=フランス/80分/英語、仏語、日本語/カラー&モノクロ/ビスタサイズ/5.1ch
配給:ロングライド
公式サイト:http://hitchcocktruffaut-movie.com/
★2016年12月10日(土)新宿シネマカリテほか 全国順次公開.
マダム・フローレンス! 夢見るふたり(原題:Florence Foster Jenkins)
監督:スティーブン・フリアーズ
脚本:ニコラス・マーティン
撮影:ダニー・コーエン
音楽:アレクサンドル・デプラ
出演:メリル・ストリープ(フローレンス・フォスター・ジェンキンス)、ヒュー・グラント(シンクレア・ベイフィールド)、サイモン・ヘルバーク(コズメ・マクムーン)、レベッカ・ファーガソン(キャサリン)、ニナ・アリアンダ(アグネス・スターク)
1944年。ニューヨーク社交界の大物マダム、フローレンス・フォスター・ジェンキンスは、親から受け継いだ莫大な遺産を愛する音楽と音楽家たちのために惜しまずに使ってきた。オペラが好きなフローレンスはソプラノ歌手になる夢を抱き続け、専門家の指導を受けていた。サロンに人を集めては自ら歌い、人々は賞賛したが実は彼女は絶世の「音痴」。その事実を本人だけが知らなかった。夫のシンクレアがいつも周到に根回しし、彼女への悪評を耳に入れないように苦労していたからなのだが、彼女は舞台に立ち、大勢の聴衆の前で歌うのを夢みていた。伴奏者として雇われたサイモンは、すぐに彼女の欠陥に気づきシンクレアに無謀だと忠告するが、いつしか天真爛漫な彼女の魅力に引き込まれていく。
10月25日、東京国際映画祭のオープニング作品としていち早く上映されました。来日したメリル・ストリープの映像をご覧になった方も多いことでしょう。歌に定評のあるストリープですが、演技のためにちゃんと正しく歌うレッスンをしてから少しずつ外していったのだそうです。
フローレンス・フォスター・ジェンキンスは実在の女性で「音痴の歌姫」として有名、彼女の歌声はCDになっています。同じ題材を扱ったフランス映画『偉大なるマルグリット』(カトリーヌ・フロ主演/2月公開)もありますが、不実な夫にマルグリットが苦しみ、さらに歌に打ち込んでいるのが哀しいです。
史実に近いのはこのイギリス版のようで、夫シンクレアとの夫婦愛が描かれています。持病はあっても夢を捨てずに前向きなフローレンスと、演じるストリープの魅力がないまぜになって、元気の出る作品でした。これまで知らなかったサイモン役のコズメ・マクムーンがとても愉快で、しかも本当にピアノを弾いているのに驚きました。吹き替えではなく子どもの頃からピアノを習っていたそうです。(白)
2016年/イギリス/カラー/シネスコ/111分
配給:ギャガ
(C)2016 Pathe Productions Limited. All Rights Reserved
http://gaga.ne.jp/florence/
★2016年12月1日(木)TOHO シネマズ 日劇ほか全国公開
疾風ロンド
監督:吉田照幸
原作:東野圭吾
脚本:ハセベバクシンオー、吉田照幸
撮影:佐光朗
音楽:三澤康広
出演:阿部寛(栗林和幸)、大倉忠義(根津昇平)、大島優子(瀬利千晶)、ムロツヨシ(ワダハルオ)、堀内敬子(折口真奈美)、戸次重幸(葛原克也)、濱田龍臣(栗林秀人)、でんでん(山野)、柄本明(東郷雅臣)
大学の研究室から違法な生物兵器「K-55」が盗まれた。研究所所長に「身代金3億円を用意しろ」と脅迫メールが届く。慌てふためく所長はしがない研究主任の栗林を呼び、警察に知られないように「K-55」を探し出せと無茶な命令をする。何の手掛かりもない上、警察にも届けられない密命に困り果てているところへ、元所員の男が事故死したとの一報が入った。研究所から「K-55」を盗み出した犯人はそいつだった…が、すでに死亡。遺品を受け取った栗林は犯人のパソコンに残っていた画像から、生物兵器の隠し場所のヒントを見つけた。日本最大級というスキー場のどこかにあるらしい。運動能力皆無の栗林は真相を明かせないまま、中学生の息子・秀人を誘ってスキー場へと向かう。
すごい形相の阿部さんのチラシ画像です。スキーができないのに、ゲレンデに出る恐ろしさが迫ってきますね。阿部さんはカッコいいとカッコ悪い役、どちらもOKな人ですが、今回はほんとーに活躍の場がありません。それにひきかえ元プロスノーボーダーの千晶役の大島優子さんは、スノーボードを始めたのは9歳のときとか。かっこいい滑りをふんだんに見せています。関ジャニ∞の大倉忠義さんは初スノーモービル。
犯人が死んでしまったため、わずかな手がかりにすがって生物兵器を探すサスペンスかと思いきや、方向が二転三転するドラマでもあり、笑えてほろっとさせる親子の情もからませてあります。
NHK人気番組「サラリーマンNEO」「あまちゃん」の演出で知られる吉田照幸監督だけあって、いろんなところに「あれ!?」という俳優さんが仕込まれていて、映画が豊かになっていました。(白)
6月に行われたクランクアップ会見。阿部寛さんが野沢温泉にロケ入りする前まで雪がなかったのに、阿部さんが雪を呼び大雪に。「野沢温泉はエヴェレストより寒かった」と阿部さん。ロケ中も皆を笑わせていた様子が伝わってくる会見でした。映画を観てみたら、そんななごやかな雰囲気はなくて、さすが、皆さん役者!(咲)
2016年/日本/カラー/ビスタ/109分
配給:東映
(C)2016「疾風ロンド」製作委員会
http://www.shippu-rondo-movie.jp/
★2016年11月26日(土)ロードショー
いのちのかたち -画家・絵本作家 いせひでこ-
演出:伊勢真一
出演:いせひでこ
画家・絵本作家 いせひでこを 映像作家 伊勢真一が描いた「いのちのかたち」の物語。
まるで絵本のようなドキュメンタリー。
2011年3月11日の東日本大震災。宮城県亘理町では、300名に及ぶ人々が犠牲になった。津波によって美しかった吉田浜の集落はすっかり流されてしまい、荒れ野に1本のクロマツが横たわっていた。いせひでこさんはその倒木にまるで呼ばれるように出会い、4年近くの間、何枚ものスケッチを描く。
根こそぎ倒れて枯野に横たわっているクロマツを前に、鉛筆を走らせるひでこさんの姿や手元に見とれました。伊勢監督(たまたま同姓ですが、お友達で奥様ではありません)は、そばでそっとカメラを構えて、ひでこさんの視線の先やスケッチブックに生まれてくる線や形を見せてくれます。どっしりとしたクロマツが朽ちていく一方、ひでこさんのアトリエでは幼子たちや庭の草花もまた別のいのちのかたちとして、スケッチブックに描きとめられていきました。しんとして優しく、温かい絵でした。
映画の中に登場したいせひでこさん作の絵本は、書店や図書館に並んでいます。ぜひ探してお手に取って見てください。(白)
2016年/日本/カラー/89分
製作・配給:いせフィルム
http://isefilm-movie.jimdo.com/2016年-最新作-いのちのかたち
★2016年11月19日(土)〜12月2日(金)新宿 K's cinema(ケイズシネマ)にて上映中 ほか全国順次公開
ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気(原題:Freeheld)
監督:ピーター・ソレット
原作:シンシア・ウェイド
脚本:ロン・ナイスワーナー
撮影:マリス・アルベルチ
音楽:ハンス・ジマー、ジョニー・マー
出演:ジュリアン・ムーア(ローレル)、エレン・ペイジ(スペイシー)、マイケル・シャノン(デーン)、スティーブ・カレル(スティーブン)
ニュージャージー州オーシャン郡。20年以上過酷な仕事に打ち込んできた刑事ローレルは、同僚からの信頼も厚い。しかし自分がレズビアンであることは隠してきた。年下で自動車修理工をしているステイシーと出会い、二人は郊外に家を買いささやかだが幸せに暮らしていた。しかしローレルにがんが見つかり、余命半年と宣告される。最愛のパートナーのステイシーに遺族年金を残し、家を相続させたいと思ったローレルだったが、法の壁に阻まれる。また保険での医療補助も残り少なくなっていく。残された時間の中で二人は新しく道を切り開くために戦い続けることを選ぶ。
この映画のもととなった『Freeheld』(2007)は、第17回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でアジア初上映されました。第80回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。
同性愛者への差別が根強くあったときにカミングアウトし、異性のパートナーに認められる権利を同性のパートナーにも、と戦いました。勇気ある行動と彼女たちの強い絆が回りの人々を動かしていく様子が描かれています。ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ主演二人の熱演に加えて、ローレルにかなわない思いを抱きながらも応援し続けるデーン役のマイケル・シャノンと、賑やかなスティーブ・カレルが映画にいい味を加えていました。
ステイシー役で、制作にも名を連ねているエレン・ペイジは2014年に自らカミングアウトし、LGBTの若者たちの人権擁護を進めるイベントでスピーチをしました。エンドロールにモデルとなった二人の写真が登場し、短いながらも幸せであった二人の日々が想像できます。(白)
2015年/アメリカ/カラー/ビスタ/103分
配給:松竹
(C)2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved
★2016年11月26日(土)より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町他全国順次ロードショー