2016年07月17日
ミモザの島に消えた母(原題:Boomerang)
監督・脚本:フランソワ・ファブラ
原作:タチアナ・ド・ロネ
撮影:ロラン・ブリュネ
出演:ローラン・ラフィット(アントワーヌ)、メラニー・ロラン(アガット)、オドレイ・ダナ(アンジェル)、ウラディミール・ヨルダノフ(父シャルル)、ビュル・オジエ(祖母ブランシュ)
30年前、ミモザの美しい島の海で若い母親が亡くなった。息子のアントワ―ヌは40歳になった今でも、母親の死が受け入れられない。祖母と父に聞いても答えはいつも同じ、子どもだった自分に大人たちが真実を隠していたのではと考えている。父は再婚し母親の話はますますタブーになった。小さかった妹アガットは父の再婚相手を母親として成長し、死んだ母親にこだわり続ける兄が不満だ。母の30回忌にアントワーヌの運転で島を訪れた帰り道、二人は激しい口論になり、車は横転する。
原作はタチアナ・ド・ロネ。2011年の『サラの鍵』(ジル・パケ=ブレネール監督)も“家族の秘密”がテーマでした。本作は戦争が背景ではありませんが、時代の色を濃く反映しています。アントワーヌは結婚生活が破たんし、仕事ではミスが続き、反抗期の娘の気持ちがわからない父親でもあります。母の死を調べていくと家族からも孤立してしまうのですが、妹が入院した病院である女性に出会うことで道が開けて行きます。
家族の秘密を解き明かすのがちょっとサスペンスタッチで、探偵もののような運びです。舞台となるミモザの島は、リゾート地として賑わうノアールムーティエ島。原作通りだそうで、満潮になると道が海に沈んでしまう細い砂州で繋がっています。とても雰囲気のある風景でもうひとつの主役ともいえます。福岡にも志賀島とつながる海の中道がありますが、満潮で切れる部分には橋がかけられています。
映画チラシは兄妹が抱き合うのと、妹アガットがさぐるような眼をしているのと2バージョン出ています。メラニー・ロランのほうがアントワーヌ役のローラン・ラフィットよりも日本では知られているので、このスタイルになったのでしょう。二人の若い母親クラリス役のガブリエル・アジェが綺麗、テレビ出演が多いようでほかの日本公開作品は見つかりませんでした。祖母役のビュル・オジエが(日本でいうと杉村春子さんのような大女優)がさすがの存在感です。(白)
2015年/フランス/カラー/シネスコ/101分
配給:ファントム・フィルム
(C)2015 LES FILMS DU KIOSQUE FRANCE 2 CINEMA TF1 DROITS AUDIOVISUELS UGC IMAGES
http://mimosa-movie.com/
★ 2016年7月23日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
トランボ ハリウッドに最も嫌われた男(原題:Trumbo)
監督:ジェイ・ローチ
原作:ブルース・クック『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(世界文化社刊)
脚本:ジョン・マクナマラ
撮影:ジム・デノールト
音楽:セオドア・シャピロ
出演:ブライアン・クランストン(ダルトン・トランボ)、ダイアン・レイン(クレオ・トランボ)、エル・ファニング(ニコラ・トランボ)、アラン・テュディック(イアン・マクレラン・ハンター)、ルイス・C・K(アーレン・ハード)、デヴィッド・ジェームズ・エリオット(ジョン・ウェイン)、ジョン・グッドマン(フランク・キング)、ヘレン・ミレン(ヘッダ・ホッパー)、ディーン・オゴーマン(カーク・ダグラス)
第2次世界大戦後、米ソの冷戦時代が始まるとアメリカでは“赤狩り”の嵐が吹き荒れた。共産主義者への糾弾は、ハリウッドの映画界にも及ぶ。当時売れっ子脚本家であったダルトン・トランボは、最初のターゲットである“ハリウッド・テン”と呼ばれた10人の映画人の一人だった。公聴会に呼ばれるが証言を拒否し、議会侮辱罪で逮捕・収監されてしまう。刑期を終えて戻ってもハリウッドからは干されてしまっていた。愛する家族との生活のため、偽名を使ってB級映画の脚本を格安で書きまくる日々が続く。1953年、友人イアン・マクレラン・ハンターに託した『ローマの休日』がアカデミー賞(原案)を受賞した。
数々の迫害・妨害にも屈せず偽名で脚本を書き続け、1960年クレジットに名前が載るようになり、見事に復活を果たしたダルトン・トランボ。それでも『黒い牡牛』で名前の刻まれたオスカーを受けたのは1975年のこと。『ローマの休日』に至っては1993年。すでに亡くなっていた彼に代わって妻のクレアが受けたのだそうです。トランボを演じたのはあんまり記憶に残らないおじ様顔のブライアン・クランストン。テレビシリーズ「ブレイキング・バッド」の主人公で大ブレイクしました。
締め付けた側「アメリカの理想を守る映画同盟」にいたのが大スターのジョン・ウェイン。愛国精神は立派だけれど、主義主張の違う者を排斥するのは民主主義って言わないんじゃ? 嫌味なコラムニスト、ヘッダ・ホッパーをヘレン・ミレンが演じていて“友達になりたくない感”満点です。生活苦から証言することを選んだ人もいるのもきちんと取り入れられ、その事情がまた切ないです。
ちょうどこの時期のハリウッドを内側から描いた『ヘイル、シーザー!』(ジョエル&イーサン・コーエン監督/ジョシュ・ブローリン)もぜひ合わせてご覧ください。(白)
2015年/アメリカ/カラー/ヴィスタ/124分
配給:東北新社
(C)2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
http://trumbo-movie.jp/
★ 2016年7月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
ヤング・アダルト・ニューヨーク(原題:While We're Young)
監督・脚本:ノア・バームバック
撮影:サム・レヴィ
音楽:ジェームズ・マーフィ
出演:ベン・スティラー(ジョシュ)、ナオミ・ワッツ(コーネリア)、アダム・ドライヴァー(ジェイミー)、アマンダ・サイフリッド(ダービー)、チャールズ・グローディン(ブライトバート)、アダム・ホロヴィッツ(フレッチャー)
ドキュメンタリー映画監督のジョシュ44歳と、妻で映画プロデューサーのコーネリア43歳。NYブルックリンに在住。子どもはなく、友人たちの子ども自慢に内心うんざり、自由でいるのが一番と思っている。しかし若くはないと自覚し始めている二人。
ジョシュは8年前の作品が高評価を受けたのに、次作は今も編集中で完成のめどは立っていない。講師をしているアートスクールで若いカップルに声をかけられる。映画監督を目指しているジェイミーと彼を応援しているバードは20代の夫婦。ジョシュを尊敬しているので作品を観てほしいと家に招待された。ジョシュとコーネリアは彼らの暮らしぶりにすっかり魅了され、マンネリだった自分たちの生活に大きな刺激を受ける。
40代と20代の夫婦のジェネレーション・ギャップを細かく見せて笑いを誘い、それぞれの世代の人は大いに共感するはず。ニューヨークの街並と両方の世代のファッションも楽しめます。あっというまにどちらの年代も通り過ぎてしまった筆者は、「そうそう」「あるある」と観ていました。不惑の世代になったからとて、大人になったわけでもなく気分は若いときのまま。しかし、身体は正直で心と身体のギャップも出てきます。
生き生きした会話と、ちょっとほろ苦いストーリーはウディ・アレンの映画を思い出させます。ベン・スティラーは制作・脚本・監督・俳優と活躍し続けている人ですが、義父への意地もあって自分を肯定できないジョシュ役。目力ありすぎ??(白)
2014年/アメリカ/カラー/97分
配給:キノフィルムズ
(C)2014 InterActiveCorp Films, LLC.
http://youngadultny.com/
★ 2016年22日(金)TOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
ソング・オブ・ラホール 原題:Song of Lahore
監督・製作:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
音楽・出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル、ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラwithウィントン・マルサリス
パキスタン・イスラム共和国の古都ラホール。ムガール王朝時代も、印パ分離独立後も、伝統音楽の中心地だった。映画産業の中心地でもあり、楽士たちは映画音楽で生計をたてていた。
1977年、ハック将軍のクーデターで軍事政権が誕生。イスラーム化が進み、音楽は禁じられる。映画産業も衰退し、音楽家はウェイターやリキシャ引きをして家族を養うようになる。
2005年、イギリスで成功したラホール出身の実業家イッザト・マジードが私財を投じて音楽スタジオを作り、サッチャル・ジャズ・アンサンブルを結成する。
実はジャズと伝統音楽は構造が似ている。即興で演奏する部分があるのだ。しかも、国内で古典音楽の聴き手はいない。古典楽器も用いて名曲「テイク・ファイブ」をカバーしたプロモーションビデオを動画サイトに投稿するや、世界中で話題になり、百万以上のアクセスを記録する。
やがて、天才トランペット奏者ウィントン・マルサリスから彼の率いるビッグバンドと共演するべくニューヨークに招待される。彼らとのセッションは、最初は噛み合わないが、本番は見事に成功! 新聞にも大きく取り上げられ、長年やってきて初めて報われたと感無量の楽士たち。勢いをつけラホールで初めての国内コンサートを開く。
パキスタンの伝統楽器の楽団と、ジャズバンドとのコラボが実に楽しい。また、世襲楽士たちの家族の物語に、ほろりとさせられます。
この物語を伝えたいと映画製作に乗り出したのは、人権や女性問題を手がけてきたパキスタンの女性映像作家シャルミーン・ウベード=チナーイ。今年、2度目のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞しています。アメリカでも撮影することになりアンディ・ショーケン監督に声をかけ、共同監督となりました。
ここで触れておかなければならないのは、インド社会では古くから楽士はカースト外の不可触民であること。ヒンドゥーからイスラーム(特にシーア派)に改宗した家系も多い。それでも楽士というとさげすまれる存在。さらに政府の政策で音楽自体が疎んじられる中、世襲楽士たちに手を差しのべ、伝統音楽に生き残りの道を開いた実業家イッザト・マジード氏。 なかなかできないことと感心します。
あと、この映画の魅力は音楽だけじゃない。
冒頭、伝統的家屋の屋上で楽器を奏でる人。ラホールの古い町並みを見渡しながらの演奏、さぞかし気持ちいいことでしょう!
そして、バードシャーヒー・モスクの素敵なシルエット。ムガル王朝第6代君主アウラングゼーブが1673年に建てたモスク。ムガル王朝時代には、この立派なモスクが音楽の中心だったそうです。時代変われば・・・です。
10数年前に、ラホールの町を女性二人で歩いたことがあります。 カッワーリー(イスラム教神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽)を聴いてみたくて、聖者廟を訪ね歩きました。残念ながら、聴くことはできなかったけれど、私たちの周りに人だかりができるたびに、誰かしらが「お〜い、皆どけ!」とどなって野次馬を整理してくれて、「次はどこに行きたい?」と道案内までしてくれたりしました。
あの古い町には、年季の入った伝統楽器の奏でる音が実によく似合います。人々の活力になってきたはずの音楽の伝統、消えないでほしいものです。(咲)
映画をより楽しく観るためにぜひ!
◆映画『ソング・オブ・ラホール』公開記念
「パキスタンから世界へ!超絶演奏楽団サッチャルの魅力を語る」
映画『ソング・オブ・ラホール』に登場するサッチャル・ジャズ・アンサンブルの秘蔵映像を見ながら、彼らやパキスタン音楽の魅力を語り尽くします。
【出演】
サラーム海上(音楽評論家・DJ・中東料理研究家)
村山和之(中央大学・立教大学兼任講師)
ヨシダダイキチ(シタール奏者)
日時:8月3日(水) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:LOFT9 Shibuya
渋谷区円山町1-5 KINOHAUS1F tel.03-5784-1239
2015年/アメリカ/カラー/DCP/82分/ウルドゥー語、英語
配給:サンリス、ユーロスペース
公式サイト:http://senlis.co.jp/song-of-lahore/
★2016年8月13日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー