2016年04月03日

さざなみ(原題:45 Years)

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監督・脚本:アンドリュー・ヘイ
原作:デビッド・コンスタンティン
撮影:ロル・クローリー
出演:シャーロット・ランプリング(ケイト)、トム・コートネイ(ジェフ)

ケイトとジェフは結婚45年になる仲睦まじい老夫婦、土曜日にはお祝いのパーティを開くため準備に余念がない。そんなときにジェフに届いた1通の手紙が、二人を大きく揺さぶることになった。ジェフはケイトに出会う前に恋人だった女性を山岳事故で失っていた。その彼女の遺体がクレバスの氷河に生前のままの姿で発見されたというのだ。かつての恋人を思い起こす夫にケイトの心は波立ち、おさまらないのだった。

表面上は穏やかに過ごす二人ですが、知らせを聞いた夫ジェフは「心ここにあらず」の態。「彼女と結婚するつもりだった?」と尋ねられるままに答えた夫の言葉に妻は傷つきます。自分の老いた姿と、若い姿で亡くなった夫の恋人を比べて嫉妬にかられてしまいます。これまでの長い結婚生活はなんだったのか、これからも同じように暮らしていけるのかと自問自答するケイト。70歳になっているからって悟りを開いたわけじゃないんです。亡くなっている人に嫉妬もすれば結婚に疑問も持つ。男女の違いも浮彫りになって、静かなのにその内側の嵐を感じさせる作品でした。嵐といえば、『愛の嵐』(1973)の上半身裸でナチス帽にサスペンダー姿が浮かびます。あのクール・ビューティがシャーロット・ランプリング。

この『さざなみ』は、第65回ベルリン国際映画祭で主演男優賞と主演女優賞をW受賞しました。(白)


2015年/イギリス/カラー/ビスタ/95分
配給:彩プロ
(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014
(C)Agatha A. Nitecka

http://sazanami.ayapro.ne.jp/
★2016年4月9日(土)シネスイッチ銀座ほか衝撃のロードショー!!
posted by shiraishi at 13:09| Comment(0) | TrackBack(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

孤独のススメ(原題:Matterhorn)

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監督・脚本:ディーデリク・エビンゲ
出演:トン・カス(フレッド)、ロネ・ファント・ホフ(テオ)、ポーギー・フランセン(カンプス)、アリーアネ・シュルター(旅行社の女性)

オランダの静かな田舎町。妻に先立たれ一人暮らしのフレッド。規則正しい生活を守り、教会通いも欠かさない。ある日、浮浪者とおぼしき男を家に招き入れ一緒に暮らし始める。何もしゃべれない男が、山羊を見るとメ〜と鳴き真似をして嬉しそうにする。子供達の誕生パーティーに呼ばれ余興をして小遣い稼ぎをしながら暮らす二人。やがて家の壁にゲイ差別をする落書きをされる。居住区には厳格なキリスト教信者が多いのだ。隣人の牧師も、フレッドに男との二人暮らしに意見する。
一方で、フレッドには一人息子がいたのだが、ゲイであることをカミングアウトしたことから追い出したという事情があった・・・

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014で『約束のマッターホルン』のタイトルで上映。最優秀作品賞を受賞。
(白)

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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014で長編コンペティション部門で最優秀作品賞を受賞した折、主演俳優の一人、ポーギー・フランセンさんが登壇。
男との二人暮らしに意見する隣人の牧師役。実は羨ましく思っている節もあるという役どころ。映画の中では、ちょっと陰険で嫌なヤツなのですが、授賞式には、なぁんとビーチサンダルで登壇! 結構、いい人そう!
「寛容」ということを考えさせられる物語でした。
原題が、なぜ『マッターホルン』なのかは、ぜひ映画をご覧になって確認を。(咲)



2013年/オランダ/カラー/シネスコ/86分
配給:アルバトロス・フィルム
http://kodokunosusume.com/
★2016年4月9日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 12:50| Comment(0) | TrackBack(0) | オランダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ルーム(原題:Room)

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監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
撮影:ダニー・コーエン
出演:ブリー・ラーソン(ジョイ)、ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック)、ジョアン・アレン(ナンシー)、ショーン・ブリジャース(オールド・ニック)、ウィリアム・H・メイシー(ロバート)、トム・マッカムス(レオ)

小さな部屋にママと2人きりで暮らしているジャックは、目がさめると部屋中のものに「おはよう」と挨拶する。5歳の誕生日にママが作ってくれたケーキにロウソクがなくて、ジャックはだだをこねた。ママは悲しそうだった。ここにはないものがいろいろある。天井の小さな窓からは空が見えるだけ。一つきりのドアはニックがかぎをかけていて、ジャックは外の世界を知らない。テレビの中の風景はニセモノ、本物なのはこの部屋とママと、ときどき食料を持ってくるニックだけだ。ニックが来る前にジャックはクローゼットに入って、声を出さないようにする。ママとの約束だから。
ママは初めてジャックにこの外には広い広い世界があると言った。ママは7年もの間ニックにこの部屋に閉じ込められていて、ジャックを妊娠し、産んだのだった。ママはジャックが死んだことにして外に出られるようにする。そして逃げるのよ、と言い聞かせる。

レニー・アブラハムソン監督は『FRANK-フランク』(2014)でハリボテの被り物で音楽活動を続けた風変わりな男性(実在のモデルがいる)を描きました。今回も尋常じゃない設定の中の母子です。
原作「部屋」を書いたエマ・ドナヒューが自ら名乗りを上げて脚本も書きました。監禁という異常な事態の中、産まれたジャックを一人で育て上げたジョイにまず胸をつかれました。緊迫した脱出劇にハラハラし、母子のこれまでとこれからに涙しました。ブリー・ラーソンは『ショート・ターム』でその確かな演技力を観ていましたが、キモとなる子役のジェイコブ・トレンブレイには脱帽です。素でやればいいというものではなく、部屋の中しか知らないジャックが外に出た瞬間、広くなっていく世界を観る驚きを演じなければなりません。後半も母と子が互いに思いあう絆の深さに胸が震えます。ぜひ劇場で小さな部屋と広い世界を体感してください。(白)

決死の思いで脱出したママとジャックを待ち受けていたのは、それまでの静かな日々と一転、好奇な目にさらされる日々。
つい先日、誘拐・監禁されていた少女が2年ぶりに脱出に成功しましたが、心に受けた傷はあまりにも大きいと胸が痛みます。ご両親の、そっと遠くから見守ってほしいとの言葉を、周囲にいる人たちも、マスコミの人たちも心に刻んでほしいと切に願います。
それにしてもつくづく思ったのは、どんな場所であれ、生まれ育った場所がやはりふるさとなのだなぁ〜ということでした。あの殺風景な部屋で、一つ一つのアイテムにさよならの挨拶をするジャックに、じ〜んとしました。
もっとすごいのは、あのような状況で生んだ子にも、愛情を注げる母性というのもの。私には子どもを生んだ経験がないので想像でしか言えませんが、どんな相手の子であっても、自分のお腹の中で育った子には違いないと愛情が持てるものなのなのかなぁ〜と。 (咲)


☆来日記者会見のスタッフ日記はこちら

☆来日記者会見報告 Web版特別記事はこちら

2015年/アイルランド・カナダ合作/カラー/シネスコ/118分
配給:ギャガ
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
http://gaga.ne.jp/room/
★2016年4月8日(金)TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開
posted by shiraishi at 12:19| Comment(0) | TrackBack(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

モヒカン故郷に帰る

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監督・脚本:沖田修一
撮影:芦澤明子
音楽:池永正二
出演:松田龍平(田村永吉)、柄本明(田村治)、前田敦子(会沢由佳)、もたいまさこ(田村春子)、千葉雄大(田村浩二)、木場勝己(竹原和夫)、美保純(会沢苑子)、小柴亮太(野呂清人)

モヒカン頭の永吉はデスメタルバンドのボーカルだが、とても食ってはいけない。仲間たちが転職を考えるのに同調するけれども、恋人の由佳が働いてくれるのでおんぶしている有様。由佳の妊娠がわかったので、7年も帰っていない実家へ里帰りすることにした。電話1本かけずに急に現れた永吉と身重の由佳に家族はびっくり。父の治は甲斐性のない永吉に怒り大げんかになるけれども、実は嬉しくて近所に永吉の結婚を触れ回り大宴会を開く。その夜治が倒れ、担ぎ込んだ病院でガンの末期と告げられる。

永吉の名は、父親が大ファンの矢沢永吉にちなんでビッグになれとつけたもの。その父親が重い病気とわかって、喧嘩ばかりしていた永吉がなにがしてやれるか悩みます。かといって重い空気にはならず、筋金入りの広島カープファンの母、就職したのに何かあるとすぐ帰省する弟、能天気な由佳たち家族と、父が指導していた吹奏楽部の中学生も巻き込んでの日々にずいぶん笑いました。父・治役の柄本明さんがこれまで以上にテンションMAXで、もたいまさこさんと似合いの夫婦役。AKBのセンターだったあっちゃんも素とは真逆そうな由佳も自然に演じて、「AKB」の冠詞はもう不要な女優さんです。
吹奏楽部はほとんど地元の中学生ですが、部長は『ソロモンの偽証 前・後篇』で映画デビュー、クラリネットを吹いていた富田望生(とみた みう)さん、気弱な部員野呂くん役は『十字架』でフジシュンを演じた小柴亮太くん。中学生のほうがモヒカンの永吉よりよほどしっかりしています。どの家族にもいつか必ず訪れる別れを描き、見終ったら里帰りしたくなる作品です。すぐに帰れない方はぜひ電話の1本でも。(白)


2016年/日本/カラー/ビスタ/125分
配給:東京テアトル
(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会
http://mohican-movie.jp/
★2016年3月26日(土)より広島公開、4月9日(土)全国拡大公開
posted by shiraishi at 00:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする