2015年12月10日

わたしはマララ   原題:He Named Me Malala

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監督:デイヴィス・グッゲンハイム
出演:マララ・ユスフザイ、ジアウディン・ユスフザイ

2014年、ノーベル平和賞を17歳という最年少で受賞したパキスタンの少女マララ・ユスフザイ。
本作は、『不都合な真実』のデイヴィス・グッゲンハイム監督が、彼女とその家族の素の姿を受賞以前から追ってきたドキュメンタリー。

パキスタン北西部スワート渓谷。学校を経営する詩人の父と文字の読めない母の長女として生まれたマララ。2012年10月、下校途中の通学バスが覆面の男に襲撃され、マララは頭部に銃弾を受ける。ブログを通じてイスラーム武装勢力タリバンによるテロや女子校の破壊行為を批判し、女性への教育の必要性を訴えていたことから狙われたのだ。奇跡的に命をとりとめたマララは、緊急手術を受けるため家族と共にイギリス・バーミンガムにわたる。国に帰れば身の危険があることから、今もイギリスで暮らす一家。マララは自分自身も学びながら、世界各地の教育を受けられない少女たちのために活動を続けている・・・

冒頭、かつてアフガニスタンがイギリスに侵攻された時に果敢に戦った少女マラライの物語がアニメで語られる。マララさんのお父さんはこの少女にちなんだ名を第一子に付けたのだ。父親は家計図にマララの名前を付け加える。300年遡っても、女性の名のない家計図に。パキスタンとアフガニスタンにまたがって暮らすパシュトゥーン族。元々女性隔離の因習が根強い民族だ。お父さんは苦労して大学を卒業し、女性たちにも教育をと、男女共学の学校を設立する。マララもその学校で学ぶ。2007年、タリバンがスワートで権威を振るうようになる。教育は女性に疑問を抱かせ自立を促すのでタリバンにとって脅威だと400以上の学校を破壊する。学校設立者の父もまたタリバンの標的だ。身の危険を感じながらも、誰かが声をあげなければというお父さんにも感銘を受けた。
そんな父親のもとに育ったマララさん。はっきりとした口調で英語でスピーチする堂々とした姿に、強い意志を感じる。でも、家で弟たちをからかってくったくなく笑うマララさんは、クリケットの選手やブラピに憧れる普通の少女。ほっとさせられる。
マララさんが過激派に襲撃されて重体だというニュースが世界を駆け巡った時、パキスタンのショエーブ・マンスール監督の長編第二作 『BOL 〜声をあげる〜』の紹介をちょうど書いていて、その襲撃事件のことを「まさにマンスール監督が憂う現状そのものだ」と結んでいる。
(パキスタン社会の現状の参考に、ショエーブ・マンスール監督『BOL 〜声をあげる〜』報告をお読みいただければ幸いです。http://www.cinemajournal.net/special/2015/BOL/index.html
それにしても、タリバンに襲撃された少女がその後ノーベル平和賞を受賞するに至る活躍をするとは、その時には思いもよらなかった。本作を観て、マララさんの頭蓋骨には大きな金属片が入れられていることを知った。その身体で世界を駆け巡って活躍するマララさんなのだ。
現在、イギリスの瀟洒な一軒家で暮らすマララさん一家。
お母さん「ここは好きだけど、故郷じゃない」
「故郷と同じなのは月だけ」とつぶやくマララさん。
一家が故郷スワートに帰れる日はいつ来るのだろう・・・(咲)


2015年/アメリカ/英語(一部パシュトー語)/88分/ドキュメンタリー映画
配給:20世紀フォックス映画
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/malala/
★2015年12月11日(金)より TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
posted by sakiko at 08:16| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

創造と神秘のサグラダ・ファミリア(原題:SAGRADA: El misteri de la creació)

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監督・脚本:ステファン・ハウプト
撮影:パトリック・リンデンマイヤー
音楽:クリストフ・シェルテンライブ
出演:ジャウマ・トーレギタル、外尾悦郎、ジョルディ・ボネット、ジョアン・リゴール、ジョアン・バセゴダ、ライモン・パニッカー、ルイス・ボネット、コンチータ&ラモン・スグラニェス

スペイン、バルセロナ。1882年に着工されたサグラダ・ファミリア(カタルーニャ語で聖家族贖罪教会)は、完成までに300年かかると言われながら今も建築中。1883年に2代目の建築家として就任したアントニオ・ガウディの構想を元にした斬新なスタイルを誇る。2005年に世界遺産に登録され、観光客を引き付けてやまない。内戦によりガウディの遺した図面や模型を焼失してしまったが、コンピューター技術を駆使して、ガウディの没後100周年にあたる「2026年完成予定」と公式に発表されている。

建築関係者しか入れない内部にカメラが入り、観光では見ることができない高所や、細部も見せてくれる映像と、建築プロジェクトに関わっている人々のインタビューとで構成されています。ずっと一目観たいと思いつつも叶わなかった(これから可能性があるだろうか?)私には嬉しいドキュメンタリーでした。中でも1978年から彫刻家として参加している外尾悦郎さんのお話がことに興味深かったです。元々彫刻家であったとはいえ、未完の建築に携わることになって仏教徒からクリスチャンに改宗、ガウディの技術を追い求めるのでなく、ガウディの心に近づき「彼の見たものを見ようとした」というのに感銘を受けました。「神はお急ぎにならない」とガウディが言ったそうですが、2016年に完成するのかどうか気になるところです。動画サイトに完成したらこうなります、というのがアップされていて、やはりこの目で見たいと思ってしまいました。手始めにこの作品をどうぞ。(白)

1982年に初めてサグラダ・ファミリアを訪れ、1882年に建築を始めたとの看板に、ちょうど百年!と、感慨深く思ったのを思い出しました。当時は、1階のホールは、まさに建設中の様相。それでも、塔の半ばあたりまで小さな古いエレベーターで昇って、塔と塔の間を結ぶ橋も渡ってみたりしました。地下にはちゃんと礼拝室があって、ちょうどミサが行われていて大勢の市民が集まっていました。観光客は縄を張った後ろから見学できました。建設中なのに、ちゃんと教会として機能しているのを知りました。
それから8年後の1990年に再訪し、ファサードなどがかなり出来上がっていて、8年の間の成果を目の当たりにしました。それでも、完成までは数十年。今回、本作を観て、ほんとに完成の日が近づいているのを感じました。ガウディは天国でどんな思いでいるでしょう・・・(咲)


2012年/スイス/カラー/スペイン語、カタルーニャ語、ドイツ語、英語、フランス語/16:9/94分
配給・宣伝:アップリンク
(C)Fontana Film GmbH, 2012
http://www.uplink.co.jp/sagrada/
★2015年12月12日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次公開
posted by shiraishi at 02:41| Comment(0) | TrackBack(0) | スイス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ベテラン(原題:Veteran)

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監督・脚本:リュ・スンワン
撮影:チェ・ヨンファン
出演:ファン・ジョンミン(ソ・ドチョル)、ユ・アイン(チョ・テオ)、ユ・ヘジン(チェ常務)、オ・ダルス(オ チーム長)、チャン・ユンジュ(ミス・ボン)

ソ・ドチョルは、正義感が人一倍の武闘派ベテラン刑事。人情家のオ チーム長が率いる個性豊かな広域捜査班の一員である。ドチョルの知り合いの運転手が会社の階段から転落、意識不明となる事件がおきる。会社側は自殺を図ったと説明するが、幼い息子を残して逝くはずがないと、ドチョルは納得できない。
事件には財閥の御曹司テオが絡んでいた。捜査を進めるうちに、テオの右腕のチェ常務の裏工作により、警察上層部からの命令で捜査が打ち切られてしまう。ますます疑問に思ったドチョルは単独捜査を再開するのだった。

『国際市場で逢いましょう』のコンビ、ファン・ジョンミンとオ・ダルスが再びの共演。直情径行の警察官を熱く演じます。
敵はなんとアンタッチャブルな巨大財閥。『カンチョリ オカンがくれた明日』の息子役で観客の心をぐっと掴んだユ・アインが、御曹司役で初の悪役に挑戦。目力も華もあります。名バイプレイヤーのユ・ヘジンが脇を支え、揃って存在感あり。ソウルの繁華街明洞(ミョンドン)を使ったクライマックスは大迫力です。8車線道路を封鎖してのカーチェイス!こんなに壊していいのでしょうか?大財閥と権力の癒着、警察内部の腐敗を鋭く追及する脚本にも快哉。
香港映画に似たテイストで、ドチョルは若い日のジャッキー・チェンにぴったりだわ、と観ていましたらリュ・スンワン監督は香港映画を観て大きくなったようです。納得。11月に来日されていたというのに、こちらの都合がつかずせっかくの監督取材の機会を逃してしまいました。残念至極。またのお越しを!(白)


2015年/韓国/カラー/シネスコ/123分
配給:CJ Entertainment Japan
(C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
http://veteran-movie.jp/
★2015年12月12日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋他全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 01:14| Comment(1) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする