2015年12月18日
ストレイト・アウタ・コンプトン 英題:Straight Outta Compton
監督: F・ゲイリー・グレイ
出演:オシェイ・ジャクソン・Jr.、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、ポール・ジアマッティほか
1986年にアメリカ、カリフォルニア州コンプトンで結成されたヒップホップグループ「N.W.A.」。本作は、彼らの成功への道のりと挫折、名声の代償、権力と偏見との戦い、そして友との別れを描いた知られざる真実の物語。
1986年、ロサンゼルスのダウンタウンの南に位置するコンプトン。ギャングの抗争や麻薬売買が横行するアメリカ屈指の危険な町。ロサンゼルス警察は黒人というだけで容赦なく制裁を加えていた。そんな状況に、暴力ではなく、ラップという武器で立ち向かおうとアイス・キューブやドクター・ドレーら5人の若者がN.W.A (Niggaz With Attitude −主張する黒人たちー)を結成した。
彼らの才能に目をつけたレコード業界のベテランビジネスマン、ジェリー・ヘラーと共にルースレス・レコードを設立。1988年8月にリリースしたデビュー作「ストレイト・アウタ・コンプトン」は、理不尽な社会への反骨精神が若者たちに受け、300万枚以上売れる大ヒット。N.W.Aは、黒人差別する警察暴力への反対運動を加速させる原動力ともなった。
名声を得た彼らだが、その裏でグループ内で亀裂が生じ始める・・・
ラップは苦手で、私にとっては全く未知の人たちだったのですが、理不尽な差別社会に音楽で立ち向かった彼らの物語はぞくぞくするものでした。
帰宅して、ブラックミュージックが好きな妹に、レコードジャケット風のプレス資料を見せたら、「え〜観たの?」と羨ましがられました。試写を観たのは11月12日のことでしたが、この時すでに妹の娘が特典付き前売り券を2枚買ってきてくれていて公開を楽しみにしているという次第でした。アイス・キューブを息子のオシェア・ジャクソン・Jrが演じているのを予告で観て、そっくり!と娘と二人で歓喜していたそう。本作、ファンを決して失望させない映画になっています。そして、私のようにラップ嫌いにも楽しめた作品です。(咲)
配給:シンカ / パルコ / ユニバーサル映画
2015年/アメリカ/147分/スコープ/デジタル
公式サイト:http://soc-movie.jp
★2015年12月19日(土)渋谷シネクイント、新宿バルト9先行公開、12月26日(土)全国公開
はるかなるオンライ山 〜八重山・沖縄パイン渡来記〜
監督:本郷義明
原案:三木 健
企画:はるかなるオンライ山 映画製作委員会 株式会社シネマ沖縄
企画・脚本:本郷義明、末吉真也
音楽:喜久川ひとし
ナレーター:国井雅比古
切り絵:熊谷溢夫
監修:三木 健
製作:末吉真也、糸数 淳
パイナップルを八重山に伝えたのは台湾の人たちだった
沖縄の名産品であるパイナップルを伝えたのは、戦前、台湾から石垣島に入植した人たちだという。日本の植民地だった台湾で、日本政府によるパイン缶詰工場の統合があり、台湾でパイナップルを生産できなくなった人たちは石垣島に新天地を求めた。
彼らは農業技術の遅れていた石垣島に進んだ農業技術を持ち込み、沖縄にパインナップル栽培を定着させ、パイナップルの缶詰を沖縄の産業に発展させた。しかし、そこに至るまでは多くの苦難の歴史があった。言葉が通じなかったり、習慣の違いが原因で二つの文化はぶつかりもしたが、そういう苦境を乗り越え協力しあうようになり大きな夢を実現させていった。
しかし、軌道に乗ったパイン缶詰も、戦争中は贅沢品として生産できなくなったり、戦後はせっかく復活してパイン缶詰工場が盛んになったのに、外国からの安いものが入ってきて、結局続かなくなってしまった。今は生のパイナップルが主流になっている。
歴史に本流された台湾の人たちの2世、3世は日本に帰化し、今は沖縄に根付いている。過去から未来へ、入植者の子孫たちと八重山の人たちとの文化交流活動も描かれる。
沖縄にパイナップルを根付かせた入植者たちの足跡は、知られざる台湾と八重山の交流史を、現代の私たちに伝えてくれる。
長年、台湾と八重山の交流史を調べてきたジャーナリストの三木健さん(八重山台湾親善交流協会顧問)の原案で、株式会社シネマ沖縄と琉球新報社が製作委員会を立ち上げ、『よみがえる琉球芸能 江戸上り』『徐葆光が見た琉球〜琉球と冊封』の本郷監督が台湾ロケも行い製作した。

三世の呉屋寛永さん

オンライとは、台湾の言葉でパイナップルのこと。鳳梨と書くらしい。この字を見て、台湾土産の定番であるパイナップルケーキのことを思い出した。「鳳梨酥」と書かれていた。でもオンライと読むとは知らなかった。
沖縄出身の友人から、子供の頃、パイナップル工場に台湾から出稼ぎに来ていた女工さんがいたという話を聞いたことはあったけど、八重山や沖縄のパイナップルが台湾から移住した人たちから伝わったとは全然知らなかった。
水牛も、その台湾から来た人たちが連れてきたとこの作品の中で語られる。当時は、この水牛の働きで、そのうち台湾の人たちに島が占領されるのではと思われ、それも台湾人排斥の流れに繋がったという。
実は37年前、石垣島に行ったことがある。その時、パイナップル畑が一面に広がっている丘を歩いたことがあり、初めてパイナップルが植えてある姿を見て感動した記憶がある。でも、台湾の人たちの苦難の歴史があったとは、全然知らなかった。知られざる八重山のパイナップル生産の歴史を知り、また八重山に行ってみたいと思った。その37年前に沖縄に行った時は、有明埠頭(東京)から船で行ったのだけど、那覇、石垣経由で台湾に行く船だった。今思うと台湾というのは基隆(キールン)だったのかもしれない。
その時は知らなかったけど、このドキュメンタリーを観て、那覇、石垣島間より、石垣、台湾間のほうがずっと近いということを知った。今は台湾から石垣島に来る観光客がいっぱいいるということも出てきたが、これを観て、今も有明から台湾に行く船があるのなら、今度は石垣島から台湾に行ってみたいと思った。(暁)
2015年/日本/85分
★2015年12月5日〜12月27日ポレポレ東中野で公開中
2015年12月17日
ディーン、君がいた瞬間(とき)(原題:Life)
監督:アントン・コービン
脚本:ルーク・デイビス
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
音楽:オーウェン・パレット
出演:デイン・デハーン(ジェームズ・ディーン)、ロバート・パティンソンデニス・ストック)、ジョエル・エドガートン(ジョン・モリス)、ベン・キングズレー(ジャック・ワーナー)、アレッサンドラ・マストロナルディ(ピア・アンジェリ)
1955年、気鋭の写真家、デニス・ストックはまだ無名の新人俳優ジェームズ・ディーンに出会った。恋人の女優の方が話題になる彼に、デニスは特別の輝きを見つける。フォトエッセイを作りたいとかけあうが上司はいい顔をしない。しかしストックはディーンに密着、ロサンゼルス、ニューヨークでの彼を撮影し、ディーンに誘われて彼の故郷インディアナまで旅をする。デニスはこれまで誰も撮らなかったディーンの素顔、取り戻せない一瞬をカメラに収めていった。
あまりにも早く駆け抜けて行ってしまったジミーこと、ジェームズ・ディーンとカメラマンとの2週間のふれあいに的を絞った作品。コートの襟を立て、くわえ煙草で寒そうに肩をすぼめて歩くジミーの写真をどこかで目にしたことはありませんか?このときにデニス・ストックが撮影し、「LIFE」に掲載された写真のうちの一枚です。
「伝説」と呼ばれる、今も皆の心の奥にいるジミーを演じるのに、ひるまない俳優がいるでしょうか? 自身もジミーのファンだというデイン・デハーンが監督の申し出を5回も断ったというのも無理ありません。デニス役のロバート・パティンソンも「僕はやらない。彼は勇気があるよ」と言っているほどです。
できるだけ似せたとしても、どうしても本人にはなれないのですから、俳優にできるのはどれだけ魂を近づけていけるかということでしょう。インディアナに向かう車中で、ジミーが死んだ母親について語るシーンが出色です。ポートレイトカメラマンでもあるアントン・コービン監督が細かく指示したのでは、と思ったシーンでした。デイン・デハーンの美しい瞬間もここに刻まれています。 (白)
東京国際映画祭の特別招待作品として上映された折に、アントン・コービン監督が来日。
ドキュメンタリー映画『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』を観て、アントン・コービンの撮る写真にぐっと惹かれた私。ぜひ、本人に会いたい!と舞台挨拶に駆け付けました。身長190cm以上! さすが、オランダ人、背が高いです。
10月24日(土)11時 新宿バルト9にて
監督を依頼された時の思いを聞かれたアントン・コービン、「私はカメラマンとして40年。正直いってジェームズ・ディーンよりも写真家のデニスのほうに興味がありました。デニスに共感し、デニスと被写体との関係にも興味を持ちました。それがジェームズ・ディーンなので、さらに面白い作品になったと思います」と語りました。 実は私もジェームズ・ディーンよりもアントン・コービンが監督したことに興味があって映画を観ました。ジェームズ・ディーンが短い人生の中で思い切り輝いた裏で寂しい思いもしていたことを感じて切なくなりました。写真家デニス・ストックの思いもきめ細かく描いたのは、やはりアントン・コービン自身が写真家だからこそでしょう。
フォトセッションの時に、MCから「どうぞ笑ってください」と言われ、「私は被写体に笑って〜と一度も言ったことがありません」とアントン・コービン。そう! 彼の撮る被写体は、キッと正面を睨みつけていて、ぞくっとさせられるのです。なるほど〜 笑ってと言わないんだ! 舞台挨拶に行った甲斐がありました。(咲)
2015年/カナダ・ドイツ・オーストラリア/カラー/シネスコ/112分
配給:ギャガ
http://dean.gaga.ne.jp/
Photo Credit: Caitlin Cronenberg,(C)See-Saw Films
★2015年12月19日(土)シネスイッチ銀座他全国ロードショー
はなちゃんのみそ汁
監督・脚本:阿久根知昭
原作:安武信吾、安武千恵、安武はな
撮影:寺田緑郎
音楽:石橋序佳
主題歌:一青窈「満天星」
出演:広末涼子(安武千恵)、滝藤賢一(安武信吾)、赤松えみな(安武はな)、一青窈(松永志保)、紺野まひる(吉村奈津子)、原田貴和子(片桐医師)、平泉成(松永和則)、赤井英和(松尾陽一)
わたしたちをつなぐ、
おいしくてあったかい記憶
信吾と千恵はめぐりあって恋人同士になった。ある日胸にしこりをみつけ検査にいくと「悪性」と告げられた。信吾は二人で病気と闘おうとプロポーズする。放射線治療をすると妊娠は望めず、千恵は子どもを持つことを諦めていたが、思いがけず小さい命を授かったことがわかった。娘に「はな」と名づけ、3人の幸せな毎日が続くかと思われたが、がんは再発・転移していた。千恵は小さなはなに、鰹節を削り、昆布を鍋に入れだしをとることを教える。食事を大切にすること、これからはなが朝のおみそ汁をつくることを約束させた。
33歳でがんのために亡くなられた安武千恵さん。夫の信吾さん、娘のはなちゃんとの短い日々を大切にして、ちゃんと食べてちゃんと生きることを伝え、かけがえのない記憶を残していかれました。一人娘の成長を見届けたかったでしょうに、どんなにか心残りだったことかと親の気持ちになって観てしまいました。
広末涼子さん、滝藤賢一さんの夫婦役が意外にも(?)とてもお似合いでした。主題歌を書き下ろした一青窈(ひととよう)さんが姉役で出演。はなちゃん役として1000人もの候補者の中から選ばれたえみなちゃんが、初出演というのにのびのびとして屈託なくとても可愛いです。先週の朝日新聞「ひと」欄に中学生になったはなちゃんご本人が登場していました。今もきちんと約束を守っておみそ汁を作っていること、小6からは夕飯も作っているとありました。千恵さんに代わって書いたレシピ集「はなちゃん12歳の台所」も11月に刊行されています。粉末だしで手抜きしている私も反省と共に読まなくては。東京テアトル70周年記念作品。(白)
2015年/日本/カラー/ビスタ/118分
配給:東京テアトル
(C)2015「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ
http://hanamiso.com/
★2015年12月19日(土)テアトル新宿&福岡県内先行公開、2016年1月9日(土)全国拡大公開
2015年12月11日
禁じられた歌声 原題:Timbuktu
監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、アベル・ジャフリ、トゥルゥ・キキ
マリの古都ティンブクトゥ近郊のニジェール川沿いで暮らす少女トヤ。両親と孤児で牛飼いの孤児イサンとのつつましくも幸せな暮らしには、いつも父の奏でる音楽があった。町はいつしかイスラーム過激派に占拠され、音楽に煙草やサッカー、そして笑うことさえも禁じられてしまう。女性には肌を隠すよう強要し、魚を売る女性に手袋をしろとまで命じる。手袋をするのを拒否して鞭打ちの刑に処された女性が、声を絞り出すように歌いだす。やがてトヤの家族にも、過激派の不気味な影が忍び寄ってくる・・・
2015年フランスのセザール賞7部門を受賞し、同年のアカデミー賞外国語映画賞にもノミネート。6月のフランス映画祭では、原題のカタカナ表記『ティンブクトゥ』で上映された。
ティンブクトゥは、世界遺産にも登録されている沙漠の民トゥアレグ族の古都。かつて、金や塩の交易で賑わい、ベルベル人やアラブのムスリムなどが往来し、学問の研究も盛んだった時代がある。
土を固めて作ったモスクは、木の杭がいっぱい飛び出ていて、独特の造形美。
その土の美しいモスクに、土足で武器を持って乗り込んできた過激派(そも、土足でモスクは敬虔なムスリムにはあるまじきこと!)に向かって長老が諭す。「私には私の、あなたにはあなたのジハード(聖戦)がある」
まさにこの言葉が問題の真髄を語っている。本来、イスラームの信仰は神と個人の直接の繋がりで、他人がとやかく言うものではないはず。クルアーンがいかようにも解釈できるのを逆手にとって、過激派が善良な民の幸せをつぶしている。そして、貴重な文化遺産までをも破壊している。今、各地に広がる愚行。それを愚行と気付かせる手立てはないのだろうか・・・
ボールを使わないエアサッカーを楽しむ子供たちの姿に、どんなに禁じても屈しない心を感じて頼もしく思った。小さな反抗が、大きな動きになって、蛮行を覆す力になることを願うばかりだ。(咲)
「イスラーム映画祭2015」オープニング上映作品
12月12日(土)13:00〜
上映後、トークセッション「映画から読み解く、イスラム過激派と西アフリカ・サヘル地域のいま」【ゲスト】ンボテ★飯村
配給:レスぺ/配給協力:太秦
2014年/フランス=モーリタニア/フランス語・アラビア語・バンバラ語・英語・ソンガイ語/カラー/97分/DCP
公式サイト:http://kinjirareta-utagoe.com
★2015年12月26日(土)よりユーロスペースにて公開