2015年12月20日

消えた声が、その名を呼ぶ   原題:THE CUT

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監督・脚本:ファティ・アキン
共同脚本:マルディク・マーティン(『レイジング・ブル』)
撮影:ライナー・クラウスマン(『ヒトラー 〜最期の12日間〜』)
美術:アラン・スタースキー(『戦場のピアニスト』)
音楽:アレクサンダー・ハッケ(『クロッシング・ザ・ブリッジ』)
出演:タハール・ラヒム(『預言者』『ある過去の行方』)、シモン・アブカリアン、マクラム・J・フーリ

1915年、オスマン帝国末期のトルコ東部の町マルディン。ある夜、アルメニア人鍛冶職人ナザレットは突然現れたトルコ人憲兵によって、妻や双子の娘と引き離され強制連行される。灼熱の砂漠で奴隷のように働かされるアルメニア人の男たち。その脇を女子どもや老人たちが憲兵に追い立てれるように疲れ果てた顔で歩いていく姿があった。
ある日、男たちは集められ次々に殺されていく。そんな中、ナザレットはナイフで喉を切られ、声を失いながらも、奇跡的に生き延びる。娘たちが生きていると耳にして、レバノンからキューバ、そしてアメリカのミネアポリスへと娘たちを探す果てしない旅が始まる・・・
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トルコではタブーとなっているアルメニア人虐殺を背景にファティ・アキン監督が描いた映画と知って、大いに期待して早々に試写に足を運びました。しかも、主演は『預言者』以来気になっているタハール・ラヒム! 
映画の冒頭に出てくるマルディンの町は、様々な宗派の教会がある美しい町。トルコでは撮影していないのですが、眼下にメソポタミア平原が広がるマルディンの雰囲気がとてもよく出ていました。
時は第一次世界大戦下。夜、家族団らんの場で、戦争の情勢や、よその町でアルメニア人が突然姿を消したらしいと話しているところに、トルコ人憲兵が突然押し入ってきます。家族と恐らくアルメニア語で話していたナザレットは、トルコ語で憲兵に答えます。多民族が共存している地ならではの光景。
今、東トルコにアルメニア人はほとんどいません。1915年に犠牲になったアルメニア人は150万人とも言われています。かつて、東トルコを旅した時に、各地で立派なアルメニア教会をいくつも観ました。一番ショックを受けたのは、ヴァン湖近くの丘の上から眼下を眺めた時に、広大な森の中に大きな教会の廃墟二つを見たときのことでした。そこにアルメニアの人たちが暮らしていた証。トルコ政府は虐殺ではなく戦争中の悲劇と位置付けているようですが、実際、どのようにアルメニア人は消されてしまったのでしょう。真実は当事者のみが知ること。
見解が分かれる出来事を背景にしている故に、ドイツ在住のトルコ移民の家庭で生まれ育った監督だからこそ作れた映画。ですが、本作はトルコでも公開されています。監督の意図は、アルメニア人の悲劇の真実を暴くことではなく、生き別れた家族の思いを描くことだったと感じます。
娘たちを必死に捜し求めるナザレットの姿を通して、1915年に運命を変えられたアルメニアの人々に思いを馳せると共に、世界各地で戦争などのために家族が離散した人たちのことにも思いが至りました。
本作の背景や、監督の思いについては、公式サイトをぜひご覧ください。(咲)


第71回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門正式出品
2014年/ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・カナダ・ポーランド・トルコ/シネマスコープ/138分
c Gordon Mühle/ bombero
提供:ビターズ・エンド、ハピネット、サードストリート
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/kietakoe/
★2015年12月26日(土)角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー !
posted by sakiko at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月19日

広河隆一 人間の戦場

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監督: 長谷川三郎 (『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』)
出演:広河隆一 他

フォトジャーナリスト 広河隆一(りゅういち)さん。
パレスチナ、チェルノブイリ、福島・・・
本作は、人間の尊厳が踏みにじられた地「人間の戦場」を撮り続け、愚かな行為に終止符を打たせたいと活動している広河さんを追ったドキュメンタリー。

1943年 中国・天津の日本人植民者コロニーで生まれる。敗戦後、3歳で日本に引き揚げる。1963年、早稲田大学入学。大学2年の時に、ドキュメンタリー写真部を立ち上げ、学生運動の先頭に立つ。運動が収束し、背広を着て社会と折り合いをつける仲間たちについていけず、大学卒業後の1967年、イスラエルの農業共同体キブツに参加する。ある日、キブツの畑で瓦礫を目にし、そこがかつてパレスチナ人の土地だったことを知る。故郷を奪われたパレスチナの人たちを追い続けることになる原点だった・・・

パレスチナ、ヨルダン川西岸の村。金曜礼拝のあと抗議運動をするパレスチナの人たちにイスラエル軍が催涙ガスを浴びせる。むせびながら一緒に走る広河さん。長年取材を続けている広河さんを、パレスチナの人々は「私たちの友人」と信頼をおいている。
その広河さんは今、医者に病院から3時間以上離れては駄目と言い渡されている。最初は無視して遠出もしていたが、新たなターゲットを日本列島に向け、失われた日本の記憶をたどる旅をされている。故郷を追われた人たちを見つめ続けてきた広河さんの飽くなき探究心! これからもどんな活動を展開されるのか、目が離せない。(咲)


2015年/日本/98分/DCP/ドキュメンタリー
配給 東風
公式サイト:http://www.ningen-no-senjyo.com/
★2015年12月19日(土) 新宿K’s cinemaにてロードショー ほか全国順次公開
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ヴィオレット ある作家の肖像   原題:VIOLETTE 

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監督:脚本:マルタン・プロヴォ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、サンドリーヌ・キベルラン、オリヴィエ・グルメ、ジャック・ボナフェ、オリヴィエ・ピィ

フランスの女性作家ヴィオレット・ルデュック(1907-1972)の半生を綴った物語。
私生児として生まれ、母に愛されずに育ったヴィオレット。
第二次世界大戦中の1942年、ヴィオレットはナチス占領下のパリを逃れ、ノルマンディーのアンサン村に疎開する。作家モーリス・サックスと夫婦を装って暮らすが、モーリスにとっては同性愛者であることを隠すための同居だった。報われない愛に悩むヴィオレットに、モーリスは書くことで思いを吐き出せと言い、パリに帰ってしまう。ヴィオレットは初めての小説「窒息」をしたためる。
ある時、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが書いた小説「招かれた女」に感銘を受けたヴィオレットは、ボーヴォワールの自宅を突き止め、自分の書いた小説を彼女に読んでほしいと預ける。これが、ヴィオレットとボーヴォワールの終生続く関係の始まりだった・・・

ボーヴォワールの助けもあって処女作「窒息」は出版され、カミュ、サルトルなどの作家に絶賛されたものの、当時の社会には受け入れらませんでした。あからさまに思いや性を綴ったのが、時代の先端を行き過ぎたようです。
冒頭、美しい女性は美しさで振り向かれ、醜い女性はその醜さで振り向かれるとありました。強烈な言葉! サンドリーヌ・キベルラン演じるボーヴォワールは、知的で端正な雰囲気でとても魅力的でした。一方、エマニュエル・ドゥヴォスが付け鼻で演じたヴィオレットは、闇商売で日銭を稼ぐも、身綺麗とはいえず、性格までもがゆがんでみえました。
「第二の性」で一世風靡したボーヴォワールと違って、存命中はあまり注目されなかったヴィオレットですが、映画を機に全集が出版され、時代を変えた作家の一人として再評価されているそうです。自分の思うままに生きたヴィオレット。人生を映画化されるとは思ってもみなかったことでしょう。(咲)


2013年/フランス/フランス語/カラー/1:1.85/5.1ch/139分/DCP/PG12
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://www.moviola.jp/violette/
★2015年12月19日(土)より岩波ホールほか全国順次公開
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ひつじ村の兄弟  原題RAMS

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監督:グリームル・ハゥコーナルソン
出演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソン

アイスランドの人里離れた村で牧羊を営むグミーとキディーの老兄弟。二人は隣に住んでいるのに仲が悪く、もう40年以上口をきいていない。
年に一度の羊の品評会。兄弟の飼う羊は先祖代々から受け継がれて来た優良種。その中でもとびきりの羊を出品するが、僅差で1位2位となり、負けた方は悔しがることしきり。
数日後、キディーの羊が伝染病に冒されていることが判明し、村のすべての羊が殺処分されることなる。先祖から受け継いだ種が絶えてしまうことになる一大事に、グミーもキディーもそれぞれに策をたてる。あることからお互いに助け合わなければいけない事態になる・・・

アイスランドの映画といえば、『馬々と人間たち』を思い出します。北極圏に近い島国で、馬?と驚いたものですが、今度は、羊。北極圏に近くて、馬や羊には寒すぎないのかとちょっと心配になりますが、実は馬も羊もたくさん飼われている国。凍えそうな時には、人肌で温めるのが一番という場面が、どちらの映画にも出てきました。やはり寒い国ならではの常套手段なのでしょう。
よけいなものがない大自然に包まれたアイスランドの景色の中で繰り広げられる仲の悪い兄弟の物語には、ユーモアさえ漂います。それもそのはず、兄役のシグルヅル・シグルヨンソンさんは、俳優・コメディアン・監督・脚本家とありました。弟役のテオドル・ユーリウソンさん共々、映画やテレビシリーズで活躍している方たちですが、ほんとに孤高の頑固者の羊飼いのようでした。(咲)


2015年/アイスランド・デンマーク/93分
配給エスパーズ・サロウ
第68回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」グランプリ受賞
公式サイト:http://ramram.espace-sarou.com
★2015年12月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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あの頃エッフェル塔の下で 原題:Trois souvenirs de ma jeunesse(青春の三つの思い出) 英題:My golden days

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監督・脚本アルノー・デプレシャン(『そして僕は恋をする』)
出演:カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、マチュー・アマルリックほか

外交官で人類学者のポールは、長かった外国生活に終止符を打ち、タジキスタンから故郷フランスに帰る決意をする。ところが空港で、彼と同名のパスポートを持つ者がいると足止めを食う。もう一人の自分がいる? ポールは忘れかけていた過去を思い出し、人生を振り返る。思えば、今の自分を作ったのは、3つの思い出だった・・・
1. 少年時代 〜普通じゃない家庭がくれた自由な心
心を病んで母は、ポールが11歳の時に亡くなる。そんな彼を支えてくれたのは、自由な心を持つレズビアンの叔母だった。
2. ソビエト連邦 〜危険な旅がくれた生き抜く力
高校時代、ポールは親友でユダヤ人のマルクとソ連に研修旅行に行った時のことを思い出す。マルクに頼まれ、イスラエル移住を希望するユダヤ人にパスポートを渡し、盗難にあったと再発行してもらったのだった。
3.エステル 〜忘れられないあの恋の“真実”とはー?
高校卒業後、憧れのパリの大学で人類学を学ぶ。久しぶりに故郷リールに帰ったポールは2年前から片思いしていたエステルに思い切って声をかける。引く手あまただったエステルの心を掴んだポール。パリとリールを何通もの手紙が行き交う。ある時、タジキスタンで調査中のポールは、エステルから思いがけない電話を受ける・・・

冒頭の窓の外に見えるタジキスタンの風景にぐっと惹かれました。
主人公が外交官だけど、元々人類学者というのにも興味津々。タジキスタンに恋人らしき女性はいるけれど、中年になった今まで、どうやらずっと独身。
空港で、同名の人物がスパイ容疑をかけられているため足止めを食わされている間に、過去を振り返るのですが、ちょっと謎めいた雰囲気も漂う不思議な余韻の物語。それにしても、ネットで繋がる今では、あんなに手民は行き交わないし、マメじゃない私では交際は続かないなぁ〜(咲)


2015年/フランス/フランス語・ロシア語/123分
第68回カンヌ国際映画祭監督週間 SACD賞受賞
配給:セテラ・インターナショナル
後援:フランス大使館、アンスィチュ・フランセ日本
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/eiffel/
★2015年12月19日(土)、Bunkamuraル・シネマほか 全国順次公開
posted by sakiko at 16:35| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする