2015年09月20日
徘徊 ママリン87歳の夏
監督・製作・撮影・編集:田中幸夫
助監督:北川のん
出演:酒井章子さん、アサヨさん
大阪・北浜に住む酒井章子さんは、奈良で一人暮らしをしていた実母アサヨさんを引き取った。夫を送った後認知症が進み、もう生活していけなくなったからだ。急に環境が変わって家に帰りたがるアサヨさんを、危ないからと外に出さないでいるとますます混乱して、ドアを叩いたり大声で叫んだりした。独身でギャラリーを経営し、2匹の猫と自由に暮らしていた章子さんはお母さんにかかりきりになってしまう。
思い切って、これまで処方されていた薬を全部やめ、外へ行かせて好きなように歩かせることにしたら、ずいぶんと落ち着いてよく寝てくれるようになった。アサヨさんの安全に注意しながら後をついて見守る章子さんの姿に、ご近所や警察も事情を知ってなにかと手助けしてくれる。アサヨさんの徘徊は、これまでになかった章子さんの人間関係を拡げていった。
『毎日がアルツハイマー』の関口監督が自分の生活をたたんでお母さんの生活に入っていたのと違い、こちらではお母さんの方が身ひとつで娘のところに移ってきました。慣れない環境で不安がつのったお母さんが毎日帰る、帰ると言い続けたのも無理ありません。
家が仕事場の自由業で楽天的な章子さんでも、昼夜の別なく騒ぐママリンことアサヨさんに音をあげます。1人きりで介護していたのですが、その後デイケア施設に預けて自分の時間を捻出したり、プロに介護の相談もできるようになりました。二人をご近所や警察も見守ってくれているのが、はた目にも心強いです。
介護は子育てと違って先が見えず、だんだん手がかかっていくものです。お神輿の担ぎ手や交代要員は多いに越したことはありません。介護する人に余裕があれば、相手に優しくなれて介護される方は安心して落ち着きますが、逆なら双方が不幸せで苦労と愚痴ばかりになってしまいます。
章子さんとアサヨさんの笑顔にホッとしました。猫たちも潤滑油になったことでしょう。
今や4人に1人が65歳以上という高齢化社会、我がこととして考え、二人からパワーをもらってください。田中幸夫監督にお話を伺いました。特別記事に掲載しています。(白)
2015年/日本/カラー/77分
配給:風楽創作事務所、オリオフィルムズ
http://hai-kai.com/
★公開予定
◎9月19日(土)〜10月2日(金)大阪シアターセブン
◎9月26日(土)〜10月9日(木)、10月10日(金)〜11月6日(金)モーニング 新宿K'sシネマ
◎9月26日(土)〜16日(金)横浜ジャック&ベテイ
◎10月4日(日)〜17日(土)仙台桜井薬局ホール
◎10月24日(土)〜31日(金)シネマ尾道
◎10月31日(土)〜11月13日(金)名古屋シネマテーク
◎11月 パリ日本文化会館「日本映画の風景」にて上映
2015年09月19日
草原の実験 原題:ISPYTANIE
監督/脚本:アレクサンドル・コット
製作:イーゴリ・トルスツノフ
出演:エレーナ・アン、ダニーラ・ラッソマーヒン、カリーム・パカチャコーフ、ナリンマン・ベクブラートフーアレシェフ
草原の一軒家。父は娘を分かれ道で車から降ろす。馬で迎えにくるカザフの青年。ある日、娘が双眼鏡を覗くと何台もの軍用車が通っていく。父が制服の男たちに囲まれる。やがて、父の死。荷物をまとめ家を去る娘。鉄条網で行く手を阻まれる。白人の青年が娘に恋をする。カザフの青年と取っ組み合い。勝者と手を繋ぐ娘の前で空の色が変わる・・・
昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映され、『遥かなる家』(『僕たちの家(うち)に帰ろう』のタイトルで8月29日公開)と共に、一般公開されるといいなと思った作品。
カザフスタンで実験といえば核実験でしょうと、結末は見えていましたが、台詞を廃した表現の豊かさと映像美に圧倒されました。
映画祭の折の記者会見でアレクサンドル・コット監督は、台詞の一切ない作品故、顔だけで語れる人をキャスティングし、編集で退屈しないよう繋いだと語りました。14歳の娘役は素人。とにかく美しく、それだけでも映画は成功!
注意したのは核爆発の色。下手をするとアニメのようになる。アメリカ人が撮った美しい映像にならないよう現実に近い色にしたそうです。
てっきりカザフスタンで撮影したのだと思っていたら、機材を持ち込むのが大変なため、ウクライナのクリミヤ半島で撮影したとのことです。映画は魔術!(咲)
2014年/ロシア/96分/カラー/シネスコ
配給:ミッドシップ
公式サイト:http://sogennojikken.com/
★2015年9月26日(土)よりシアター・イメージフォーラム ほか全国順次ロードショー
◎エレーナ・アンさん舞台挨拶予定◎
9/26(土)10:10/12:10/19:10 の回上映後@シアター・イメージフォーラム
※12:10の回上映後の舞台挨拶は東京国際映画祭 矢田部吉彦プログラミング・ディレクターが司会を務めます。
2015年09月17日
2015年、25回目を迎えるアジアフォーカス・福岡国際映画祭。比類なきアジア映画の玉手箱を開いてみよう!
いよいよ明日18日に開幕するアジアフォーカスのみどころを、東南アジアの映画に特に造詣の深いmacoさんより、寄稿いただきました。
☆インドネシア大特集+注目の作品(東南アジアを中心に)
インドネシア映画の特集上映では[マジック☆インドネシア] として公式招待作2本をふくむ全8本、今までの国内で最大規模の特集上映が組まれている。
巨匠ガリン・ヌグロフから、リリ・リザの初期作品、世界の映画祭で活躍する30代の若手までインドネシア映画の歩みも伺える、幅広くユニークでそして貴重なセレクションだ。
アジアフォーカスでは近作がほぼ毎回上映されているリリ・リザ、昨年の最新作『ジャングル・スクール』(14)は観客賞に輝いた。
今回の監督作はインドネシア・ニューシネマ初期の作品『シェリナの大冒険』(00)と、『クルドサック』(98)の2本。前者はお転婆なジャカルタからの転校生の少女が主人公の大ヒット長編デビュー作、後者はスハルト体制崩壊の後、国内映画界も困難に直面していた頃、リリ・リザ、ミラ・レスマナら4人の若手の監督がそれぞれの感性で撮られた短編が、大都市の片隅で映画や音楽などそれぞれの夢を追って苦悩する物語の流れを紡ぎ当時の社会の閉塞的(クルソダック=行き詰まりの意味)雰囲気を描いている。この時期は映画人自身がインドネシア映画界を盛り上げるべく、若手監督の自主上映企画等地道な努力を開始した時代でもある。


数年前、筆者は運よくジャカルタで、ずいぶん年季の入ったフィルム上映で『シェリナの大冒険』と二作目『アリアナ、アリアナ』を見る貴重な機会に恵まれた。後者はデビュー作とは打って変わって大都市ジャカルタの孤独な母と子の物語。夜のシーンが美しいアート色の強い作品だ。
インドネシアの映画公開システムは独特のものがあって、いわゆる公式チャート等は無く、街の映画館の集客数?でざっくりと公表される。商業作ではホラーやゴースト、恋愛ものが多く、日本人がぱっと思うようなアジア最大のイスラム教徒人口のインドネシアの一般的イメージからは大分開きがある。もっとも国際映画祭に出品されるようなアート系やヒューマンドラマも、検閲の制限はありながらも、多彩なテーマの作品が次々に撮られている。インドネシアのもつ多様性と寛容性は豊富な映画の滋養となっているに違いない (例えばリリ・リザ監督『GIE』(05)は60年代の華人系の学生運動家が主人公で、スハルト体制以前は絶対のタブーだったテーマ。) もっとも、今でも国内一般公開では国内向け別バージョンや検閲によるカット、封切り後、主にモラルに接するとしてイスラムの宗教団体からの圧力により中止等も時折あるようだ。当時は典型的な’やんちゃな’自身の学生時代の日常生活がモデルと言うリリ・リザ監督『永遠探しの3 日間』では国内公開版は「大胆(ずたずた) に」カットされたと、映画祭来日時語っていた。
ジャカルタ等大都市では、やはり現在はシネコン中心で、映画市場は国産外国映画共にこの数年で急速に増加している。ましてや総人口2億5000万に達しようかという多民族・文化のインドネシアが今世紀アジアの映画大国になるのは不思議では無い。一方ガリン・ヌグロフ監督は、詩的で時にアート性が難解とも言われ興行的には難しい作品もあるが、広大なインドネシア各地、諸島を巡る学校や地方コミュニティ上映のネットワークも確立していて、民族・社会性が高いナイーブな作品を丁寧に巡回上映して、継続して動員を獲得していると言う。
『動物園からのポストカード』
『空を飛びたい盲目のブタ』
彼らの次の世代として、インディペンダントなスタイルでスタートし、短編からカンヌ、ベルリンと世界の映画祭で注目され評価を高めていったのが、エドウィン監督。78年、インドネシア第二の都市スラバヤ生まれの華人系インドネシア人という背景は、その比類なきユニークな、特にシュールで不思議な映像の世界を生んだ素地になっている。今回の『動物園からのポストカード』と言い、デビュー作『空を飛びたい盲目のブタ』と言い、寓話的て錯綜するストーリーの中で、どこか自分のアイデンティティーや社会の立ち位置に不安をもつ登場人物が模索・妄想し、もがく?姿が風刺の効いたユーモアで描かれるのだ。

今回のオープニング作品『黄金杖秘聞』はスンバ島の雄大な自然を舞台に、インドネシア伝統武術の伝承を巡る弟子たちの激闘の物語。リリ・リザとミラ・レスマナが製作したインドネシア版ブロック・バスター映画。
ジャワ島〜東南亜地域で6世紀頃から伝承されている伝統武術プンチャック・シラットは『ザ・レイド』のヒットで世界的に認識され、インドネシア国内でも再発見された映画ジャンルとなり新たな観客・ファンを呼び込んでいる。
『黄金杖秘聞』では、初の試みとして日本アニメ会社現地法人とのコラボでコンテンツ(公式グッズ、フィギア、ケーム等)を展開するとの事。
ところで主役の一人であり、今回映画祭ゲストとして来日するコニラス・サプトラは、既に数多くのリリ・リザの作品(『GIE』『永遠探しの3 日間』)やインドネシア映画として日本初の一般公開作であり主演・デビュー作『ビューティフル・デイズ』でもおなじみ。当時はまだ建築専攻の大学生、ドイツ人の父とジャワ人の母を持ちいわゆるハーフタレントのアイドルとして一躍スターとなったが、インドネシアの多様性そのままに多彩な役をこなし(華人の学生運動家/GIE、信仰深いイスラム青年、フィルムを運ぶバイク便の兄ちゃん・・etc)俳優として成長し、またMCや映画祭審査員、広告等である種の文化人としてのステータスも確立している。実はエドウィン作品には短編から参加していて、『動物園からのポストカード』では動物園育ちのヒロインを外の世界に連れ出す謎の手品師というはまり役?を演じている。実はエドウィン作品のヒロイン、ミューズとも言えるラドヤ・シェリルとは『ビューティフル・デイズ』で共演している。若い世代のインドネシア映画人はジャンルを超えて結びつきが密接なようだ。
インドネシア特集の一環で来日するジェコ・シォンポのJeckoSDANCE。
パプア州(パプアニューギニア州の西半分インドネシア領)出身のジェコは、『オペラジァワ』でも踊っているが、その持ち味は’アニマル・ポップ’と自ら名づけたパプアの民族的バックグラウンドとヒップホップとコンテンポラリーダンスのスタイルを自由自在にフュージョンしたストリートなダンス。ジェコのダンスグループは街の兄ちゃんお姉ちゃんが家族のように団結している。ジャカルタではテレビや野外イベントでもしょっちゅう見かけるほど親しまれている存在。インドネシアの都市ポップカルチャーの今を体現する比類ないアイコンと言える。
アジアフォーカスの上映作品も沢山、’アジア映画の玉手箱’
(以下アーカイブ等について)
25回目を迎えたアジアフォーカスだが、多くの上映作品が福岡市総合図書館のアーカイブに収容されている。映像ホール・シネラで映画祭の過去作品を地域や監督テーマで特集上映もたびたび組まれている。福岡在住のアジア映画ファンが非常に羨ましい点です!!
今年は2〜3月にかけ東京・フィルムセンターでも、数年に一度のアジアフォーカス作品を中心としたアーカイブからのセレクション上映が組まれた。
筆者的には、特に映画祭常連のベトナムのダン・ニャット・ミン監督の唯一未見だった中越戦争時代国境の町ランソンを舞台とした劇映画デビュー作『射程内の街』(82)と、記念すべき第一回アジアフォーカスで上映された『十月になれば』(84)を再び鑑賞出来た。前者は中国との関係を配慮して長く国外上映が許されていなかったと言う。後者は観たベトナム人のおそらく誰しも?が涙を流さずには居られない、心の故郷的な作品だそうだ。
抑制の効いたトーンながら、特にベトナム女性、ベトナム人の生き様、感性を美しく、時には音楽や踊りを幻想的に構成して織り成す ヒューマニティ溢れる映像世界はデビュー作から確かに見て取れる。監督本人が当時の(実在の人物)赤旗ハノイ駐在記者役で出演しているのも興味深い。『きのう、平和の夢を見た』は09年の観客賞に輝いた。従軍看護婦の日記が原作。(翻訳『トゥイーの日記』)
今年「あなたが選ぶアジアフォーカス ザ・ベスト」に選ばれたパキスタンのショエーブ・マンスール監督『神に誓って』(07)と『BOL 〜声をあげる〜』(11)は、正に’ザ・アジアフォーカス’な監督、作品。共にアジアフォーカスでプレミア国内プレミア上映、観客賞受賞している。
アジアフォーカスな(初めて紹介した、特集した)監督、各国の作品は本当に沢山あるが、東南アジアでは第二回のベトナム映画特集ではじめて英語字幕つきの6本のニュープリントが、その後世界の多くの映画祭を巡回した。
またペン・エーク監督のデビュー作『ファン・バー・カラオケ』(96)、同じくオキサイド・パン『運命からの逃走』(97)、実は彼ら新世代を映画祭に紹介したのがやはり映画祭の顔だったタイの巨匠故・チャード・ソンスィー監督だった。
気になる監督・国/地域の過去の上映作品情報はこちらからチェックできます。
(関連企画のアジア美術館・アジア賞等の作品も含む。)
またアジアフォーカスでは福岡・九州に関連(ロケ地やテーマ)した作品が毎年上映されているが、昨年では佐賀全域でロケを敢行したノンスィー・ニブミット監督『タイムライン』、福岡フィルム・コミッションの支援により市内女子高校で撮影された杉野希妃プロデュース・主演のセンシティブなテーマの作品『SALA(アジアフォーカスプレミア上映タイトル/禁忌』も印象的な作品だった。
今年上映されるフィリピン映画『インビジブル』は、12年に『Amok』が上映されたローレンス・ファハルド監督が福岡、旭川とロケーションして在住フィリピン人のサバイバルな生き様を描いている。アジアフォーカスの先輩格でもあり、世界三大映画祭の受賞監督ブリランテ・メンドゥーサの総指揮、国際交流基金アジアセンターのサポートで完成した大注目の作品である。
☆福岡でのアジア各国からのロケ作品等、情報がアップされています。
東南亜のカルチャー街角や田んぼあたりを逍遥継続中。
by Maco(Mali)Studioscentcat
☆インドネシア大特集+注目の作品(東南アジアを中心に)
インドネシア映画の特集上映では[マジック☆インドネシア] として公式招待作2本をふくむ全8本、今までの国内で最大規模の特集上映が組まれている。
巨匠ガリン・ヌグロフから、リリ・リザの初期作品、世界の映画祭で活躍する30代の若手までインドネシア映画の歩みも伺える、幅広くユニークでそして貴重なセレクションだ。
アジアフォーカスでは近作がほぼ毎回上映されているリリ・リザ、昨年の最新作『ジャングル・スクール』(14)は観客賞に輝いた。
今回の監督作はインドネシア・ニューシネマ初期の作品『シェリナの大冒険』(00)と、『クルドサック』(98)の2本。前者はお転婆なジャカルタからの転校生の少女が主人公の大ヒット長編デビュー作、後者はスハルト体制崩壊の後、国内映画界も困難に直面していた頃、リリ・リザ、ミラ・レスマナら4人の若手の監督がそれぞれの感性で撮られた短編が、大都市の片隅で映画や音楽などそれぞれの夢を追って苦悩する物語の流れを紡ぎ当時の社会の閉塞的(クルソダック=行き詰まりの意味)雰囲気を描いている。この時期は映画人自身がインドネシア映画界を盛り上げるべく、若手監督の自主上映企画等地道な努力を開始した時代でもある。


数年前、筆者は運よくジャカルタで、ずいぶん年季の入ったフィルム上映で『シェリナの大冒険』と二作目『アリアナ、アリアナ』を見る貴重な機会に恵まれた。後者はデビュー作とは打って変わって大都市ジャカルタの孤独な母と子の物語。夜のシーンが美しいアート色の強い作品だ。
インドネシアの映画公開システムは独特のものがあって、いわゆる公式チャート等は無く、街の映画館の集客数?でざっくりと公表される。商業作ではホラーやゴースト、恋愛ものが多く、日本人がぱっと思うようなアジア最大のイスラム教徒人口のインドネシアの一般的イメージからは大分開きがある。もっとも国際映画祭に出品されるようなアート系やヒューマンドラマも、検閲の制限はありながらも、多彩なテーマの作品が次々に撮られている。インドネシアのもつ多様性と寛容性は豊富な映画の滋養となっているに違いない (例えばリリ・リザ監督『GIE』(05)は60年代の華人系の学生運動家が主人公で、スハルト体制以前は絶対のタブーだったテーマ。) もっとも、今でも国内一般公開では国内向け別バージョンや検閲によるカット、封切り後、主にモラルに接するとしてイスラムの宗教団体からの圧力により中止等も時折あるようだ。当時は典型的な’やんちゃな’自身の学生時代の日常生活がモデルと言うリリ・リザ監督『永遠探しの3 日間』では国内公開版は「大胆(ずたずた) に」カットされたと、映画祭来日時語っていた。
ジャカルタ等大都市では、やはり現在はシネコン中心で、映画市場は国産外国映画共にこの数年で急速に増加している。ましてや総人口2億5000万に達しようかという多民族・文化のインドネシアが今世紀アジアの映画大国になるのは不思議では無い。一方ガリン・ヌグロフ監督は、詩的で時にアート性が難解とも言われ興行的には難しい作品もあるが、広大なインドネシア各地、諸島を巡る学校や地方コミュニティ上映のネットワークも確立していて、民族・社会性が高いナイーブな作品を丁寧に巡回上映して、継続して動員を獲得していると言う。


彼らの次の世代として、インディペンダントなスタイルでスタートし、短編からカンヌ、ベルリンと世界の映画祭で注目され評価を高めていったのが、エドウィン監督。78年、インドネシア第二の都市スラバヤ生まれの華人系インドネシア人という背景は、その比類なきユニークな、特にシュールで不思議な映像の世界を生んだ素地になっている。今回の『動物園からのポストカード』と言い、デビュー作『空を飛びたい盲目のブタ』と言い、寓話的て錯綜するストーリーの中で、どこか自分のアイデンティティーや社会の立ち位置に不安をもつ登場人物が模索・妄想し、もがく?姿が風刺の効いたユーモアで描かれるのだ。

今回のオープニング作品『黄金杖秘聞』はスンバ島の雄大な自然を舞台に、インドネシア伝統武術の伝承を巡る弟子たちの激闘の物語。リリ・リザとミラ・レスマナが製作したインドネシア版ブロック・バスター映画。
ジャワ島〜東南亜地域で6世紀頃から伝承されている伝統武術プンチャック・シラットは『ザ・レイド』のヒットで世界的に認識され、インドネシア国内でも再発見された映画ジャンルとなり新たな観客・ファンを呼び込んでいる。
『黄金杖秘聞』では、初の試みとして日本アニメ会社現地法人とのコラボでコンテンツ(公式グッズ、フィギア、ケーム等)を展開するとの事。
ところで主役の一人であり、今回映画祭ゲストとして来日するコニラス・サプトラは、既に数多くのリリ・リザの作品(『GIE』『永遠探しの3 日間』)やインドネシア映画として日本初の一般公開作であり主演・デビュー作『ビューティフル・デイズ』でもおなじみ。当時はまだ建築専攻の大学生、ドイツ人の父とジャワ人の母を持ちいわゆるハーフタレントのアイドルとして一躍スターとなったが、インドネシアの多様性そのままに多彩な役をこなし(華人の学生運動家/GIE、信仰深いイスラム青年、フィルムを運ぶバイク便の兄ちゃん・・etc)俳優として成長し、またMCや映画祭審査員、広告等である種の文化人としてのステータスも確立している。実はエドウィン作品には短編から参加していて、『動物園からのポストカード』では動物園育ちのヒロインを外の世界に連れ出す謎の手品師というはまり役?を演じている。実はエドウィン作品のヒロイン、ミューズとも言えるラドヤ・シェリルとは『ビューティフル・デイズ』で共演している。若い世代のインドネシア映画人はジャンルを超えて結びつきが密接なようだ。
インドネシア特集の一環で来日するジェコ・シォンポのJeckoSDANCE。
パプア州(パプアニューギニア州の西半分インドネシア領)出身のジェコは、『オペラジァワ』でも踊っているが、その持ち味は’アニマル・ポップ’と自ら名づけたパプアの民族的バックグラウンドとヒップホップとコンテンポラリーダンスのスタイルを自由自在にフュージョンしたストリートなダンス。ジェコのダンスグループは街の兄ちゃんお姉ちゃんが家族のように団結している。ジャカルタではテレビや野外イベントでもしょっちゅう見かけるほど親しまれている存在。インドネシアの都市ポップカルチャーの今を体現する比類ないアイコンと言える。
アジアフォーカスの上映作品も沢山、’アジア映画の玉手箱’
(以下アーカイブ等について)
25回目を迎えたアジアフォーカスだが、多くの上映作品が福岡市総合図書館のアーカイブに収容されている。映像ホール・シネラで映画祭の過去作品を地域や監督テーマで特集上映もたびたび組まれている。福岡在住のアジア映画ファンが非常に羨ましい点です!!
今年は2〜3月にかけ東京・フィルムセンターでも、数年に一度のアジアフォーカス作品を中心としたアーカイブからのセレクション上映が組まれた。
筆者的には、特に映画祭常連のベトナムのダン・ニャット・ミン監督の唯一未見だった中越戦争時代国境の町ランソンを舞台とした劇映画デビュー作『射程内の街』(82)と、記念すべき第一回アジアフォーカスで上映された『十月になれば』(84)を再び鑑賞出来た。前者は中国との関係を配慮して長く国外上映が許されていなかったと言う。後者は観たベトナム人のおそらく誰しも?が涙を流さずには居られない、心の故郷的な作品だそうだ。
抑制の効いたトーンながら、特にベトナム女性、ベトナム人の生き様、感性を美しく、時には音楽や踊りを幻想的に構成して織り成す ヒューマニティ溢れる映像世界はデビュー作から確かに見て取れる。監督本人が当時の(実在の人物)赤旗ハノイ駐在記者役で出演しているのも興味深い。『きのう、平和の夢を見た』は09年の観客賞に輝いた。従軍看護婦の日記が原作。(翻訳『トゥイーの日記』)
今年「あなたが選ぶアジアフォーカス ザ・ベスト」に選ばれたパキスタンのショエーブ・マンスール監督『神に誓って』(07)と『BOL 〜声をあげる〜』(11)は、正に’ザ・アジアフォーカス’な監督、作品。共にアジアフォーカスでプレミア国内プレミア上映、観客賞受賞している。
アジアフォーカスな(初めて紹介した、特集した)監督、各国の作品は本当に沢山あるが、東南アジアでは第二回のベトナム映画特集ではじめて英語字幕つきの6本のニュープリントが、その後世界の多くの映画祭を巡回した。
またペン・エーク監督のデビュー作『ファン・バー・カラオケ』(96)、同じくオキサイド・パン『運命からの逃走』(97)、実は彼ら新世代を映画祭に紹介したのがやはり映画祭の顔だったタイの巨匠故・チャード・ソンスィー監督だった。
気になる監督・国/地域の過去の上映作品情報はこちらからチェックできます。
(関連企画のアジア美術館・アジア賞等の作品も含む。)
またアジアフォーカスでは福岡・九州に関連(ロケ地やテーマ)した作品が毎年上映されているが、昨年では佐賀全域でロケを敢行したノンスィー・ニブミット監督『タイムライン』、福岡フィルム・コミッションの支援により市内女子高校で撮影された杉野希妃プロデュース・主演のセンシティブなテーマの作品『SALA(アジアフォーカスプレミア上映タイトル/禁忌』も印象的な作品だった。

今年上映されるフィリピン映画『インビジブル』は、12年に『Amok』が上映されたローレンス・ファハルド監督が福岡、旭川とロケーションして在住フィリピン人のサバイバルな生き様を描いている。アジアフォーカスの先輩格でもあり、世界三大映画祭の受賞監督ブリランテ・メンドゥーサの総指揮、国際交流基金アジアセンターのサポートで完成した大注目の作品である。
☆福岡でのアジア各国からのロケ作品等、情報がアップされています。
東南亜のカルチャー街角や田んぼあたりを逍遥継続中。
by Maco(Mali)Studioscentcat
2015年09月13日
アジアフォーカス・福岡国際映画祭2015 Focus on Asia International Film Festival Fukuoka
25周年を迎えたアジアフォーカス・福岡国際映画祭。1991年の創設以来、アジアの西から東まで、アジアフォーカスならではの作品を数多く上映してきた魅力ある映画祭です。
天神界隈、博多駅での開催を経て、2013年よりキャナルシティ博多を会場に開催されています。ビルの谷間に人工の運河が作られたキャナルシティは、まさに都会のオアシス。近くには博多の氏神さま櫛田神社や、中洲川端商店街もあります。博多駅や天神へも、徒歩圏内です。
25周年を迎え、特集上映や特別上映も多彩。アジア各地からゲストも多数来場します。監督や俳優などゲストのQ&Aやサイン会など交流の場も魅力です。協賛企画もバラエティに富むアジアマンスの福岡。ぜひ、お出かけください。
会場:キャナルシティ博多 アクセス
開催期間:
◆2015年9月18日(金) オープニング上映・オープニングセレモニー
オープニングセレモニーでは40名以上のゲストが、キャナルシティB1Fサンプラザステージに特設された水上レッドカーペットを歩いて入場します。
どなたにも無料でご覧いただけるセレモニーです。
セレモニーに先立って、オープニングには、インドネシア映画『黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)』が上映されます。主演のニコラス・サプトラも来場します!
◆2014年9月19日(土)〜9月25日(金) 公式招待作品等上映
映画祭期間中(9/18-25、26のバリアフリー上映を含み)の上映作品数は、21カ国・地域 36作品。(8月に上映が終了したプレイベント計9作品を入れた映画祭全上映作品数は 22カ国・地域 45作品)
【公式招待作品】
『望郷のうた』トルコ・フランス・ドイツ
『未熟なざくろ』イラン
『山嶺(さんれい)の女王 クルマンジャン』キルギス
『裁き』インド
『蒼ざめた時刻(とき) R-15』タイ
『黄金杖秘聞(おうごんじょうひぶん)』インドネシア
『クルドサック』インドネシア
『超人X. 』ベトナム
『インビジブル』フィリピン
『赤い季節の忘却』中国
『Little Big Master(原題)』香港・中国
『その夏に抱かれて』台湾
『生きる』韓国
『ダークホース』ニュージーランド
『ミンヨン倍音の法則』日本
★インドネシア大特集
公式招待2作品をあわせて、インドネシア映画8作品を上映
『シェリナの大冒険』『オペラジャワ』『動物園からのポストカード』『サガルマータ』『月までアナザー・トリップ』『モルッカの光』
インドネシアのジェコ・シオンポ率いるダンスカンパニーJeckoSDANCEによるダンスパフォーマンス、シティポップバンドIKKUBARUのライヴもサンプラザステージで開催
★日本映画特集 「幻想の南洋」
『モスラ』(1961年/監督:本多猪四郎)
『マタンゴ』(1963年/監督:本多猪四郎)
『ザ・スパイダースのバリ島珍道中』(1968年/監督:西河克己)
『女衒』R-18(1987年/監督:今村昌平)など
★ドキュメンタリー特集「アジア・リミックス」
『Don't Think I've Forgotten:Cambodia's Lost Rock and Roll』カンボジア/アメリカ/フランス.
『光と陰の物語:台湾新電影』台湾
『Southeast Asian Cinema - When the Rooster Crows』イタリア/シンガポール
『Remake, Remix, Rip-off』ドイツ/トルコ
*英語タイトルのものは英語字幕のみでの上映
☆詳細は公式サイトをご覧ください。
http://www.focus-on-asia.com/
★macoさんによる、インドネシア特集ほか、みどころ紹介はこちらで!
第8回したまちコメディ映画祭in台東
期日:2015年9月18日(金)〜22日(火・祝)
会場:浅草公会堂、浅草フランス座演芸場東洋館、水上音楽堂 野外ステージ、水上音楽堂 野外ステージ
プログラム:こちらからダウンロードができます。
詳細は公式サイトにて
チケット:チケットぴあにて販売中
★Pコードは下記共通
[浅草公会堂] ◆Pコード:554-440
[不忍池水上音楽堂] ◆Pコード:554-441
[東京国立博物館 平成館] ◆Pコード:554-442
[浅草フランス座演芸場東洋館] ◆Pコード:554-443
●特別招待作品
【料金】:前売 1,300円/当日 1,500円/自由席
各作品の上映日時、会場、ゲストについてはHPでご確認を
『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』(2014年/アメリカ/109分)
オープニングセレモニー&上映/特別招待作品
監督:ボビー・ファレリー/ボビー・ファレリー
出演:ジム・キャリー、ジェフ・ダニエルズ、キャスリーン・ターナー
『全力スマッシュ』(2015年/香港/108分)
監督:デレク・クォック、ヘンリー・ウォン
出演:ジョシー・ホー、イーキン・チェン、ロナルド・チェン、エドモンド・リョン、スーザン・ショウ
『ムーン・ウォーカーズ』(2015年/フランス/ベルギー/94分)
監督:アントワーヌ・バルドー=ジャケ
出演:ロン・パールマン、ルパート・グリント、ロバート・シーハン
『すれ違いのダイアリーズ』(2014年/タイ/110分)
監督:二ティワット・タラトーン
出演:スクリット・ウィセートケーオ、チャーマーン・ブンヤサック
『Absolutely Anything(原題)』(2015年/イギリス/85分)
監督:テリー・ジョーンズ
出演:サイモン・ペッグ、ケイト・ベッキンセール、ロビン・ウィリアムズ(声の出演)、モンティ・パイソン(声の出演)
●「コメディ栄誉賞」ビートたけし氏
クロージングセレモニーにてコメディ栄誉賞を授与
リスペクト上映『菊次郎の夏』(1999年/121分)
9月22日(火・祝)開場15:00/開演15:30
浅草フランス座演芸場東洋館
前売り 1,300円/全席指定 *当日券の販売はございません。
ビートたけしリスペクトライブ
9月22日(火・祝) 開場14:30/開演15:30
浅草公会堂
出演:浅草ジンタ、海藻姉妹、サンボマスター、ポカスカジャン、ホフディラン
ゲスト:ビートたけし
★ライブに引き続き、クロージングセレモニー、コメディ栄誉賞授賞式を行います。
前売り 3,500円/当日 4,000円/全席指定
●短編コンペティション したまちコメディ大賞2015
9月21日(月・祝)開場10:00/開演10:30
開催場所:浅草公会堂
入選作品10本を上映
●声優口演ライブinしたコメ2015【前夜祭】
9月18日(金)開場18:00/開演18:30
開催場所:浅草公会堂
出演者羽佐間道夫、野沢雅子、山寺宏一、岩田光央、草尾毅、内田夕夜、恒松あゆみ
(1)『キートンの探偵学入門』
(2)羽佐間道夫の声優“楽”入門
(3)『チャップリンの消防士』
【料金】前売り4,000円/当日4,500円/全席指定
●「野良スコ」イッキミ上映〜コタロー帰ってきました!〜
9月19日(土) 開場15:30/開演16:00予定
開催場所:東京国立博物館 平成館
【料金】 前売り 1,300円/当日 1,500円/自由席
●台東区フィルム・コミッション支援作品『青天の霹靂』
9月20日(日) 13:30開場/14:00開演
開催場所:浅草公会堂
ゲスト:劇団ひとり監督
『青天の霹靂』(2014/日本/96分/東宝)※バリアフリー上映(音声ガイド付き)
監督・脚本・出演:劇団ひとり
原作:「青天の霹靂」 劇団ひとり著(幻冬舎)
出演:大泉洋、柴咲コウ、劇団ひとり【料金】 前売り 1,300円/当日 1,500円/自由席
●映画秘宝」presents 映画秘宝20周年記念まつり
9月20日(日) 開場17:30/開演18:00
開催場所:浅草公会堂
ゲスト:町山智浩、高橋ヨシキほか
『グリーン・インフェルノ』<R18+>ジャパンプレミア
(2013年/アメリカ/100分/ポニーキャニオン)
【料金】 前売り 2,000円/当日 2,500円/全席指定
●「DVD&ブルーレイでーた」presents 第4回 DVDスルー・コメディ大賞
9月20日(日)開場:10:30/開演11:00
開催場所:東京国立博物館 平成館
『ワイルドなスピード! AHO MISSION』監督・脚本:ジェイソン・フリードバーグ、アーロン・セルツァー
ゲスト:林家しん平
【料金】 前売り 1,300円/当日 1,500円/自由席
●映画講義「とり・みきの吹替え“凄ワザ”講義」
9月20日(日) 開場14:00/開演14:30
開催場所:東京国立博物館 平成館
講師:とり・みき
ゲスト:羽佐間道夫、大塚明夫、安原義人、多田野曜平、園崎未恵、森洋子
『スサミ・ストリート全員集合 〜または"パペット・フィクション"ともいう〜』吹替版上映
(2013年/ドイツ/93分)
【料金】 前売り 1,500円/当日 1,800円/自由席
●映画講義「進撃の西村喜廣 特殊造型講義」
9月21日(月・祝) 開場10:30/開演11:00
開催場所:東京国立博物館 平成館
講師:西村喜廣監督
ゲスト:武田梨奈
【料金】 前売り 1,500円/当日 1,800円/自由席
●シネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」inしたコメ
9月21日(月・祝)開場17:00/開演17:30
開催場所:浅草公会堂
ゲスト:野田秀樹、中村勘九郎、荒井修(文扇堂主人)
『シネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」』上映
(2003年8月歌舞伎座/110分/松竹)
【料金】 前売り 2,000円/当日 2,500円/全席指定
●ヨーロッパ企画Presents「ショートショートムービーフェスティバル・ラブコメ大会」
9月22日(火・祝) 開場17:00/開演17:30
開催場所:不忍池水上音楽堂
出演者:ヨーロッパ企画メンバー ほか
ゲスト:本広克行(映画監督)
ショートショートムービー15本を上映
【料金】 前売り 1,500円/当日 1,800円/自由席
●無料イベント
「男おばさん!!」公開収録 "私の好きなコメディ映画"
9月19日(土) 16:30
開催場所:浅草公会堂1Fロビー
"江戸っ子おじさん"西村喜廣の特殊メイク子供ワークショップ
9月20日(日)13:00〜
開催場所:浅草公会堂 1階ロビー