2015年08月23日
ロマンス
監督・脚本:タナダユキ
撮影:大塚亮
音楽:周防義和
出演:大島優子(北條鉢子)、大倉孝二(桜庭洋一)、野嵜好美(久保美千代)、西牟田恵(母)
小田急ロマンスカーのアテンダントとして働く北條鉢子。成績はいつもトップクラスで、うっかり者の後輩久保美千代のミスもさりげなくフォローしている。出がけに、疎遠になっている母親からの手紙が届いていたが、読む時間もなくバッグに入れたまま職場に向かう。
車内販売中に乗客の男がワゴンからお菓子を抜き取ったのを見た鉢子は、事務所へ連れていく。男は払うつもりだったと言い張って解放されるが、鉢子は納得がいかない。おまけに戻らなくてはならないロマンスカーに乗り遅れてしまう。
ぷりぷりしながらふと見ると、ごみ箱に捨てた母親からの手紙をさっきの男が読んでいる。怒ると「この人、自殺するつもりじゃないか」と言う。にわかに心配になった鉢子は、映画プロデューサーの桜庭と名乗った彼と「母親探し」をすることになってしまった。
ロマンスカーでたまたま出会った2人が、一日箱根の景勝地を巡ります。最近あんまり聞かない「ロマンス」の芽が出たかも、というくらい淡い物語。
「おっさん」と呼ばれて腐る桜庭は、制服姿で財布も持たない鉢子の着替えを買い、移動の間の費用を持ちます。大倉さんは脇役で何度も観ているのにあまり印象に残らず、このダメ男っぽいのに色気もある桜庭を観て、やっと良いところを見つけた気がしました。
タナダユキ監督の作品は、これまでも「いるいる、こんな人」「あるある、こんなこと」と感じさせました。会話がとても自然で、すこ〜しずつ近づいていく匙加減が絶妙です。この作品の鉢子は演じる大島さんと同い年の26歳、何かと揺れてしまう心情がよく出ていました。
AKB卒業後の『紙の月』で助演女優賞をいくつも受賞、この作品では久しぶりの主演です。「AKBの」という冠はもう不要でしょう。それにしても、制服でも普段着姿でも、エクボの出る笑顔も相変わらず10代のころのように可愛いです。(白)
この映画を観て、小田急ロマンスカーでの強烈な出来事をにわかに思い出しました!
大学を卒業して会社に入ったばかりのこと、同期入社の女性たち8人程で、箱根の会社の寮に泊りに行った時のことです。京王線が遅延して、予定していたロマンスカーに乗り遅れた私。携帯などない時代でしたが、たまたま平塚に住んでいる子がいて、1時間遅れで小田原に着くと伝えることができました。
さて、一人で乗り込んだロマンスカー。隣の席には白いスーツにサングラス、そしてアタッシュケースのおっさん。(ちらっと見て、この時点で無視したい人物と判断!)
当時のロマンスカーは、まず車内販売のメニューが配られ、注文を取りにくるシステムでした。隣のおっさんが、「一人で旅行? 何かご馳走してあげるよ」と声をかけてきました。「電車が遅れて、一緒に行く女性たちとは小田原で待ち合わせなんです」と答えたら、「小田原で僕と肩組んで一緒に降りていったら、みんな驚くだろうね」などと言うのです。恐らく30代後半。奥さんはいるけど、休日に一緒に外出したがらないと言っていたことまで、よく覚えています。まだ純情だった22歳の私。小田原駅でほんとにくっついてきたらどうしよう・・・と、駅に着くまでドキドキでした。(といいながら、しっかりアイスクリームケーキをご馳走になったような・・・)
ロマンスカーというと、このおぞましい出会いを思い出してしまうのですが、その後、一人旅をしていて、電車の中で素敵な出会いもあって、一緒に町歩きしたなんてこともそういえばありましたよ〜 (咲)
2015年/日本/カラー//97分
配給:東京テアトル
(c)2015 東映ビデオ
http://movie-romance.com/
★2015年8月29日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開
2015年08月19日
夏をゆく人々 原題: LE MERAVIGLIE 英題:THE WONDERS
監督:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:マリア・アレクサンドラ・ルング、アルバ・ロルヴァケル、サム・ルーウィック、ザビーネ・ティモテオ、モニカ・ベルッチ
イタリア中部・トスカーナ州の人里離れた自然に囲まれた地に住むジェルソミーナは、養蜂を営む一家の4姉妹の長女。ちょっと頑固なドイツ人の父ヴォルフガングは、息子がいない分、長女のジェルソミーナに養蜂の仕事を教え込み頼りにしている。
ある晴れた日、家族そろって湖水浴に出かけた先で、「ふしぎの国」というテレビ番組の収録の場に出会う。司会をしているのは、きらきら輝く銀色のカツラに白いドレスを着た妖精のようなミリーという女性。ジェルソミーナは彼女の魅力に一気に惹かれてしまう。番組では、この地に根づくエトルリア文化の伝統に則した生活をする家族を募集しコンテストをするという。ジェルソミーナは秘かに応募する。
ある日、父親が14歳のドイツ人の少年マルティンを連れてくる。盗みと放火で捕まった彼を、「少年更生プラン」で預かることになったのだ。言葉を発せず、鳥のような口笛を吹く少年にジェルソミーナは次第に惹かれていく。
そんなある日、父が母アンジェリカと二人で外出し、留守の間、子どもたちだけで蜂蜜作りをしていた時、事故は起こる・・・
頑固者の父親が、有り金はたいて駱駝を買って帰ってきます。ジェルソミーナが小さい時に欲しいと言っていた駱駝。でも、夢見ていた幼い頃は脱していて、しかも両親不在の間に事故が起こったこともあって駱駝どころじゃないのです。駱駝の二つのコブが揺れる様がなんとも悲しくみえます。
映画の前半は、養蜂一家の日常生活を細かく見せてくれて、すごく現実的。後半、テレビ番組「ふしぎの国」のコンテストに家族ぐるみで出場することになって、嫌がる父を説得して、皆で伝統的な衣装に身を包んで収録現場の島の洞窟に行きます。そこは、古代エトルリアのお墓だったところ。モニカ・ベルッチ演じる司会者ミリーの妖艶な魅力もあって、幻想的な雰囲気。
一つの映画で、ドキュメンタリーのような場面と、ファンタジーのような場面が共存して、とても不思議な映画。
アリーチェ・ロルヴァケル監督は、1982年生まれで、まだ30代前半の女性。本作が長編2作目。実際にドイツとイタリアのハーフで実家は養蜂を営むが、物語はあくまでフィクション。なお、母親役のアルバ・ロルヴァケルは、監督の実の姉。また、ジェルソミーナを演じたマリア・アレクサンドラ・ルングは映画初出演。少年の口笛にあわせて蜜蜂を顔にはわせる姿が絶品でした。(咲)
☆第67回カンヌ国際映画祭グランプリ
2014年/イタリア・スイス・ドイツ/1時間51分/カラー/1:1.85/5.1chデジタル/DCP
配給:ハーク 配給協力:アークエンタテインメント
公式HP: http://natsu-yuku.jp/
★2015年8月22日(土)より岩波ホール他 全国ロードショー
2015年08月17日
クーキー (原題:Kuky se vraci )
監督・製作・脚本:ヤン・スベラーク
撮影:ブラディミル・スマトニー 音楽:ミハル・ノビンスキ
出演:オンジェイ・スベラーク(声)、ズデニェク・スベラーク(声)
オールドリッチ・カイザー 他
『コーリャ 愛のプラハ』で第69回アカデミー外国語映画賞を受賞したチェコのヤン・スベラーク監督の、オリジナル脚本によるパペットアニメーション。ゴミ捨て場に捨てられたテディベアが繰り広げる不思議な冒険をパペットや精巧なミニチュア、VFXを駆使して描いた。ぜんそく持ちの男の子オンドラは、テディベアのクーキーとずっと一緒に暮らしていた。ところがオンドラの母親がゴミと一緒にクーキーを捨ててしまう…ゴミ捨て場へと運ばれたクーキーは、ショベルカーに潰されそうになった瞬間、突然動き出して森の中へと逃げ込んだ。しかし森の中には邪魔者が沢山いて、クーキーの行く手を阻む…はたしてクーキーは大好きな少年オンドラの待つ家に辿り着くことができるのか?!!
チェコのアカデミー賞4部門受賞、世界的ゲーム・クリエイター集団アマニタ・デザインによるユニークな森のキャラクターたちも話題のパペットアニメーションです。小さな頃、私も眠る時に必ず一緒だったぬいぐるみがありました。いつの間にか母親に捨てられて号泣しましたが、この作品の冒頭も同じ!! きっと世界中の誰もが、こんな経験をしているんだと心温まりました。チェコ伝統のマリオネット技術(パペット)を駆使し、実写とCGで創りあげられた魔法の世界。川本喜八郎など日本の人形アニメーション作家に多大なる影響を与えた東欧のアニメ王国チェコから可愛くて、ちょっと奇妙で切ない大人も楽しめる物語が届きました!! (千)
2010/チェコ/95分
配給:アンプラグド
公式サイト
★8月22日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2015年08月16日
かけがえのない人(原題:The Best of Me)
監督:マイケル・ホフマン
原作:ニコラス・スパークス
撮影:オリヴァー・ステイプルトン
音楽:アーロン・ジグマン
出演:ミシェル・モナハン(アマンダ・コリアー)、ジェームズ・マースデン(ドーソン・コール)、ルーク・ブレイシー(若き日のドーソン)、リアナ・リベラト(若き日のアマンダ)、キャロライン・グッドオール(エヴリン)、ジェラルド・マクレイニー(タック)
ルイジアナ州の海上石油採掘基地で働くドーソンは、爆発事故に遭ったものの奇跡的に命をとりとめる。
海に浮かんでいるときも、入院中のベッドでも脳裏をよぎったのは20年前の恋人アマンダの面影だった。そんなときに、若き日の恩人であるタックが亡くなりドーソン宛の遺言があると知らせがきた。
粗暴な父と兄に虐待されていた高校生のドーソンを保護してくれたのがタックだった。その遺言とは、ドーソンとアマンダに一緒にやってほしいことがあるというもの。20年ぶりに再会したアマンダは結婚して子どももいたが、夫と心が通わなくなっていた。昔のままのドーソンに会って、かつての楽しかった日々が甦る。
これまでも多くの作品が映画化されている人気作家パニコラス・スパークスの小説が原作。高校生のころと、20年後に再会してからの二つのラブストーリーがほぼ等分に語られます。一本で2本分楽しめると言ってもいいでしょう。
主人公たちと同じアラフォー年代の方々が一番共感するかと思いますが、忘れられない初恋の思い出は誰もが心の奥底に秘めているはず。いっときラブストーリーに浸って若返ってください。
若いアマンダ役のリアナ・リベラトは6月末公開の『ハッピーエンドが書けるまで』で、晩生な高校生がとりこになるイケイケな女子高生のケイト。美人というより元気で可愛いタイプです。若いドーソン役のルーク・ブレイシーは『スパイ・レジェンド』でピアス・ブロスナンと一騎打ちもする若手の敏腕スパイでした。今回の長髪を見ると時代物のコスプレも似合いそうです。(白)
2014年/アメリカ/カラー/シネスコ/118分
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)2014 Best of Me Productions, LLC All Rights Reserved
http://kakegaenonai.jp/
★2015年8月22日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
ナイトクローラー(原題:Nightcrawler)
監督・脚本:ダン・ギルロイ
撮影:ロバート・エルスウィット
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ジェイク・ギレンホール(ルイス/ルー・ブルーム)、レネ・ルッソ(ニーナ・ロミナ)、リズ・アーメッド(リック)、ビル・パクストン(ジョー・ロダー)
ロサンゼルスに一人住んでいるルイス・ブルームには定職も家族もない。インターネットで情報をあさり、夜な夜な街に出ては、金網を切り取っては換金して生活している。たまたま事故現場に遭遇してそこに集まる「ナイトクローラー」の存在を知った。彼らはフリーのパパラッチで、事故や事件現場の刺激的な映像を撮ってはテレビ局に売っている。これは金になると踏んだルイスは、盗んだ自転車を売って、ビデオカメラと無線傍受器を手に入れる。カージャックの被害者に近づいて撮影した悲惨な映像は、テレビ局が高く買い取ってくれた。ディレクターのニーナは「視聴者が求めているのは刺激的な映像」「さらにいいのは被害者が白人の富裕層で、犯人がマイノリティか貧困層」と悪びれずに言う。その通りの映像を撮り続けるルイスは、より速い車を入手しアシスタントも雇い入れる。
この役のために2ヶ月かけて12kgも減量したというジェイク・ギレンホール。ただでさえ大きな眼を瞬きもせず見開いて、不気味この上なしです。社会の歪みがそのまま出たような孤独な男ですが、天職ともいえる(?)仕事に出会って、成り上がっていきます。初めはディレクターに対して生真面目に応えていたのが、力関係が変化するにしたがって態度も言葉もぞんざいに。ジェイク怪演。
ひっきりなしに起こる交通事故や凄惨な事件に視聴者の感覚も麻痺してしまい、視聴率のためにより刺激的な映像を求めるテレビ局の裏側を垣間見せ、現場に群がるパパラッチたちの攻防も描いています。倫理はないのか?
ダン・ギルロイ監督は『落下の王国』『ボーン・レガシー』の脚本家として知られていますが、この作品が初監督作品。兄のトニー・ギルロイが製作、双子の弟のジョン・ギルロイが編集にあたっています。ついでに父上のフランク・D・ギルロイも脚本家で1971年のベルリン映画祭で脚本賞を受賞しています。
パパラッチといえば、パリで散々追いかけられた挙句にトンネル内で支柱に激突して亡くなってしまったダイアナ妃の交通事故(1997年)を思い出します。このときにパパラッチという言葉が一気に広まったんじゃなかったかな。(白)
2014年/アメリカ/カラー/シネスコ/118分
配給:ギャガ
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS
http://nightcrawler.gaga.ne.jp/
★2015年8月22日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー