2015年06月20日
雪の轍(わだち) 原題:Kış Uykusu(冬の眠り) 英題:Winter Sleep
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
脚本:エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギネル、メリサ・ソゼン、デメット・アクバァ、アイベルク・ペクジャン、セルハット・クルッチ、ネジャット・イシレル
トルコ、奇岩が美しいカッパドキア。
舞台俳優を引退したアイドゥンは、親の資産を受け継ぎ、洞窟ホテル「オセロ」の主として何不自由なく暮らしている。だが、若く美しい妻ニハルとは、お互い干渉しない生活が2年も続き、出戻った妹ネジラからは、色々と意見される日々だ。
ある日、車の窓に小石をぶつけられる。投げた少年が小川に落ち、家に送っていく。家はアイドゥンの貸家で、家賃滞納のため数日前に家具を差し押さえたと執事が言う。借主で少年の父イスマイルは刑務所帰りで職がない。「父上の時代には信頼で結ばれていた。強制執行する前に相談してほしかった」とイスマイルから恨みをぶつけられるが、アイドゥンにとって資産は使用人任せで初耳だった。
イスマイルの弟でイスラームの導師ハムディが、時折許しを求めてやってくる。両者の思いは平行線だ。
一方、自分の資産を当てにして慈善活動をしている妻ニハルとも分かち合えない。アイドゥンは、妻と距離を置く為、イスタンブルに行く決意をする。雪に閉ざされ、飛行機は欠航、列車も遅れている。アイドゥンはイスタンブルに行くのをやめ、やもめ暮らしをしている友人宅にころがりこむ。
夫の留守、ニハルは大金を持ってイスマイルの家を訪ねる・・・
196分、ひと言も聞き漏らすまいと、息を殺して画面に見入ってしまった。壮大な自然の中で、舞台劇のように物語が展開していく。
地元の新聞にエッセイを連載しているアイドゥン。コラムにイスラームの導師のことを「高尚文化の宗教を伝えてくれる存在・・・」と書きながら、ハムディ導師のことは、みすぼらしくて狡猾とけなす。それでいて、かつて舞台で演じた導師の役を「よく演じすぎたかな?」と妹に問うたりする。「外国にいたから見てない」と素っ気ない妹。
地方紙じゃなくて大きな新聞に書けばいいのにという妹に、「大新聞には興味ない」と強がりも見せる。
イスマイルとハムディの母親は、ニハルが訪ねていくと、家主の妻が差し押さえのテレビを返しに来てくれたのかと、「これで宗教番組が観れる」と歓迎する。
宗教的に保守的な者と、宗教に疎い世俗的な生活をする者が共存する社会は、トルコの縮図でもあるが、広く世界の縮図でもある。
夫と妻の関係にも目が離せない。アイドゥンとニハルのように歳が離れてなくても、どこの夫婦にもありえる心のすれ違い。
裕福なのに心が満たされない者、金はなくとも自尊心を失わない者・・・ 生きる意味を模索する人々の姿に釘付けになった。(咲)
◆公開記念トークショー
日時:6月28日(日)10:30の回上映終了後
登壇者:沼野充義さん(ロシア文学者)、亀山郁夫さん(ロシア文学者)
場所:角川シネマ有楽町
◆7/4(日)新宿武蔵野館でも、サラーム海上さん、『雪の轍』劇中に登場する日本人・村尾政樹さんのトークイベントが決定!
★『雪の轍』公開記念 ジェイラン映画祭 オープニングイベント
日程:7月8日(水)
会場:草月ホール(青山)
<プログラム内容>
プログラムA(昼)
13:30−16:00上映『繭』(20分)『五月の雲』(130分)
16:10−レクチャー
「トルコ文化の中の映画とヌリ・ビルゲ・ジェイラン」
野中恵子(トルコ研究者/「都市を巡るトルコの歴史」著者)
プログラムB(夜)
18:00−トーク
「国際映画祭とトルコ映画 ヌリ・ビルゲ・ジェイランを中心に」
石坂健治(日本映画大学教授/東京国際映画祭アジア部門プログラミングディレクター)
市山尚三(東京フィルメックスプログラムディレクター)
矢田部吉彦(東京国際映画祭プログラミングディレクター)
19:00−21:30上映『繭』(20分)『五月の雲』(130分)
参加費:1プログラム
一般1500円 / シニア・学生・アテネ・フランセ文化センター会員=1000円
★ヌリ・ビルゲ・ジェイラン映画祭2015
日程:9月29日(火)−10月3日(土)
会場:アテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水)
上映作品(予定):『カサバー町』(1997)、『冬の街』(2002)、『うつろいの季節(とき)』(2006)
『スリー・モンキーズ』(2008)、『昔々、アナトリアで』(2011)+シンポジウム実施予定。
※詳細は7月8日(水)のオープニングイベントで発表
☆『昔々、アナトリアで』(2011)
*カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作
7月11日(土)より 【ワンコイン(500円) 1週間限定レイトショー】
2014年/トルコ・仏・独/196分/カラー/シネマスコープ
配給:ビターズ・エンド
協力:ターキッシュ エアラインズ
後援:トルコ大使館 / ユヌス・エムレ インスティテュート
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/wadachi
★2015年6月27日(土)、角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館 ほか全国順次ロードショー
マッドマックス 怒りのデス・ロード(原題:Mad Max: Fury Road)
監督:ジョージ・ミラー
脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラソウリス
撮影:ジョン・シール
音楽:ジャンキー・XL
出演:トム・ハーディ(マックス)、シャーリーズ・セロン(フュリオサ)、ニコラス・ホルト(ニュークス)、ヒュー・キース=バーン(イモータン・ジョー)、ゾーイ・クラビッツ(トースト)
地球は汚染され、水や食料をはじめ資源が尽きかけ、荒廃した砂漠がひろがる。愛する妻子を救えなかった元警官のマックスはいまや本能だけで生きていた。武装集団ウォーボーイズの襲撃を受け、砂漠を支配するイモータン・ジョーの砦に拉致された。同じ頃ジョーの右腕だった女戦士フュリオサの裏切りが発覚する。フュリオサは貴重な燃料や水のタンクと一緒に、ジョーが囲っている5人の妻たちも連れ出していた。怒り心頭のジョーはウォーボーイズを率いてフュリオサを追撃する。ジョーに心酔するニュークスは、屈強なマックスを自分の「輸血袋」として車に固定し、戦闘に躍り出ていく。
メル・ギブソン主演の第1作『マッド・マックス』(1979年)以来、2,3と続編を製作、長い時間を経てようやく4作目が公開になりました。ジョージ・ミラー監督は70歳と年を重ねましたが、この最新作の切れ切れアクションといったら、目が丸くなります。一応ストーリーはあるものの、全編アクション、アクションまたアクション。それもカーチェイスしながらです。
悪役イモータン・ジョーの悪魔のようなカリスマっぷり、スピードもMAXの改造車と爆音、マックスに負けないほど男前なフュリオサ(シャーリーズ・セロン汚しても美人)、女神のような5人の妻・・・と、男の子たちが大好きな要素がぎっちりつまっています。
トム・ハーディは、ほぼ一人で出ずっぱりの『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』が6月27日、『チャイルド44 森に消えた子供たち』が7月3日公開と主演作品が続きます。善悪どちらにも染められる自由度(演技力も)の高い俳優です。要注目!(白)
2015年/オーストラリア/カラー/シネスコ/120分/2D,3D、IMAX
配給:ワーナー・ブラザース
(c)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/
★2015年6月20日(土)より全国公開
『ターナー、光に愛を求めて』 原題 Mr. Turner
(C)Thin Man Films
監督・脚本マイク・リー
製作ジョージナ・ロウ
撮影ディック・ポープ
音楽ゲイリー・ヤーション
出演 ティモシー・スポールジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
ドロシー・アトキンソンハンナ・ダンビー
マリオン・ベイリーソフィア・ブース
ポール・ジェッソンウィリアム・ターナー・シニア
18世紀末から19世紀に活躍したイギリスの風景画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの画家人生を描く伝記ドラマ。
「戦艦テメレール号」など数々の傑作を残した、ロマン主義の巨匠と言われていたターナー。若くして名声を得ながら、画壇ではなかなか作品や行動を理解されなかった様子が描かれる。しかし、批判や嘲笑を浴びても、新たな表現を模索し旅を続け、絵を描き続けた。旅を愛した画家の創作への情熱や人物像を描く。
ターナーがイギリスの高名な画家だとは知らなかったが、あまり展覧会など行ったことがない私なのに、ターナーの展覧会は2回ほど行ったことがある。朝日や夕日を浴びた、海と空、船や港。そして嵐の中の光景など、天候、自然の光景。そしてあの色彩。特にあの黄土色(黄色と赤)の色彩に惹かれたから。朝日と夕日、嵐の空の色の色彩が素晴らしい。この作品では、ターナーのイメージの色彩が満載されていた。
そして、この作品を見て旅に明け暮れた画家だったと知った。
しかし、ご多分にもれず、女性に対する態度が許しがたい。実際にそうだったからこういう風に描いているのか…。その時代は、女中はそのように扱われていたのか。でも女中もターナーに気があるように描かれていて、監督は女性をこのように描きたかったのか…。(暁)


(C)Thin Man Films
2014/イギリス・フランス・ドイツ/149分
公式HP http://www.cetera.co.jp/turner/
配給 アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
6 月20日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次 公開
『沖縄 うりずんの雨』
(c)2015 SIGLO
監督・ナレーション ジャン・ユンカーマン
企画・製作 山上徹二郎
音楽 小室 等
戦後70年、沖縄は問いかける
『老人と海』で与那国島の巨大なカジキを追い求める老漁師の姿を通して、荒々しくも美しい自然と風土を捉え、『映画日本国憲法』では平和憲法の意義を訴え、平和を守ろうと行動する人たちを支え勇気づけてくれたアメリカ人映画監督 ジャン・ユンカーマン。最新作では、戦争に翻弄されてきた沖縄の戦後史をたどり、米軍基地をめぐる不屈の戦いを続けている沖縄の人々の尊厳を描いている。
戦後70年たっても日本全国の米軍専用施設の74%が沖縄に集中しているといわれるが、沖縄戦以後、アメリカによる占領期から今日に至る、米軍基地をめぐる負担を日米双方から押し付けられてきた沖縄の差別と抑圧の歴史を描きだし、辺野古移設問題に繋がる、沖縄の人たちの深い失望と怒りの根っこを浮かび上がらせる。
第1部「沖縄戦」1945 年4月1日、アメリカ軍が沖縄本島に上陸し、12週間に及ぶ激闘で沖縄では住民の4人に一人が亡くなった。当時同じ戦場で戦った元米兵、元日本兵、沖縄住民に話しを聞き、米公文書館所蔵の米軍による記録映像を差し込み、沖縄地上戦の実情にせまった。
第2部「占領」1945年6月23日の沖縄戦の組織的戦闘の終結を待たず、4月1日の沖縄本島上陸直後から始まっていた米軍による差別的な沖縄占領政策の実態と米軍基地建設の状況を描き出す。それが、戦後、占領下で、沖縄の人々の平和を求める反基地闘争に繋がる。
第3部「凌辱」米軍基地の存在によってもたらされる女性たちへの性暴力の実態を、被害者、加害者である元米兵双方への取材を通して明らかにする。また、基地周辺住民への被害だけでなく、米軍内で女性兵士たちが性的被害を受けている実態をも描き出す。
第4部「明日へ」辺野古への米軍基地建設をめぐる日本政府の強引な対応と、沖縄への差別的な扱いを許している日本本土の無関心に対して、沖縄の人たちの深い失望と怒り。このような歴史の流れの中で、やむにやまれぬ気持ちで、不屈の闘いを続ける沖縄の人びとの真の強さを伝える。
うりずんの雨は 血の雨 涙雨 礎の魂 呼び起こす雨
沖縄が梅雨に入る5月くらいまでを指す言葉で、沖縄地上戦がうりずんの季節に重なり、この時期になると当時の記憶が甦り、体調を崩す人たちがいることからタイトルに。
この映画を観て、改めて沖縄が背負ってきたもの、抵抗を続ける辺野古をめぐる沖縄の人々の思いが伝わってきた。沖縄の「終わらない戦後」をいま一度、私たち自身に問うドキュメンタリー映画である。それにしても、アメリカ軍内部でも女性兵士が性的被害を受けているとは…。(暁)
製作 前澤哲爾、前澤眞理子
撮影 加藤孝信、東谷麗奈/整音 若林大記
配給・宣伝:シグロ
2015年/日本/2 時間28 分/カラー/DCP・BD/ステレオ5.1ch
公式サイト http://okinawa-urizun.com/
70年目の沖縄慰霊の日に合わせ、6月20日から
岩波ホール、沖縄桜坂劇場ほか全国順次公開
★上映情報
[東京]
○会場:岩波ホール(TEL.03-3262-5252)
http://www.iwanami-hall.com/
○上映時間:6/20(土)〜7/31(金)
11:00〜/14:30〜/18:30〜
○岩波ホール 劇場イベント(全て、14:30の回、上映後)
6/23(火/沖縄・慰霊の日)
ユンカーマン監督×山上徹二郎(本作プロデューサー)
7/3(金)石川真生さん(写真家)×ユンカーマン監督
7/8(水)池田恵理子さん(女たちの戦争と平和資料館 館長/本作出演)
×ユンカーマン監督
7/16(木)三上智恵さん(ジャーナリスト/「戦場ぬ止み」監督)
×ユンカーマン監督
[その他の地域]公開劇場情報
[沖縄]○会場:桜坂劇場(TEL.098-860-9555)
http://www.sakura-zaka.com/
○上映時間:6/20(土)14:00〜
6/21(日)14:00〜/17:20〜
6/22(月)〜26(金)10:00〜/14:00〜
6/27(土)〜7/3(金)13:00〜
7/4(土)〜調整中
北海道:シネマ・トーラス(TEL.0144-37-8182)
http://cinema-taurus.info/
福島:フォーラム福島(TEL.024-533-1515)
http://www.forum-movie.net/fukushima/
群馬:シネマテークたかさき(TEL.027-325-1744)
http://takasaki-cc.jp/
静岡:静岡シネ・ギャラリー(TEL.054-250-0283)
http://www.cine-gallery.jp/
愛知:名演小劇場(TEL.052-931-1701)
http://homepage3.nifty.com/meien/
大阪:第七藝術劇場(TEL.06-6302-2073)
http://www.nanagei.com/
兵庫:神戸アートビレッジセンター(TEL.078-512-5500)
http://kavccinema.jp/
福岡:KBCシネマ(TEL.092-751-4268)
http://www.h6.dion.ne.jp/~kbccine/