2015年01月30日

繕い裁つ人

tukuroi.jpg

監督:三島有紀子
原作:池辺葵
脚本:林民夫
撮影:阿部一孝
美術:黒瀧きみえ
衣装デザイン:伊藤佐智子
音楽:小林洋平
主題歌:平井堅「切手のないおくりもの」
出演:中谷美紀(南市江)、三浦貴大(藤井)、片桐はいり(牧葵)、黒木華(葉子)、杉咲花(ゆき)、中尾ミエ(泉先生)、伊武雅刀(橋本)、余貴美子(南広江)

神戸の坂の上にある南洋裁店。2代目店主の市江は、初代の祖母が残した顧客と型紙を大切に守り、その人のためだけの一点ものを仕立てている。いつもは祖母の代からの顧客の仕立て直しやサイズ直し、友人の店に置くわずかな新作はいつも完売。大手百貨店に勤める藤井は市江の腕にほれ込み、ブランド化を薦めるが、市江は「着る人の顔の見えない洋服は作らない」と断り続ける。藤井は市江を「頑固じじい」のような人だと言いつつ、根気良く日参する。

原作の動きの少ない静かな画風が、どうやって映画化されるのだろうと楽しみでした。三島監督がこだわったキャスティング、中谷美紀さんに頑固な仕立職人の市江が見事に重なりました。家事は母親にまかせきり、浮世離れしたところにユーモアが漂います。もっと若かったら私もあのチーズケーキ注文するんだけど・・・。
住まい兼アトリエの洋館、重要なアイテムの洋服、特に市江の衣装が素敵。ときおり挟まれる神戸の街の風景と人々がしっくり合っています。夜会のシーンが異質ですが、年に一度のファンタジー空間だからいいか。(白)

生まれ育った神戸を舞台にした『縫い裁つ人』。町のどこが出てくるかしらとドキドキ。
三浦貴大演じる藤井が勤める大丸百貨店は、元町入口のすぐそば。反対側は居留地で、まさに神戸の繁華街のど真ん中。大丸の中に入ると、←海側 山側→ という表示が各階にあって、神戸らしいなぁ〜と感じます。
山に向かって上っていって振り返ると海が見えるのが神戸の町。学校が山の中腹にあって、よく授業中に脇見をして海を眺めたものです。私が住んでいた頃は、阪急電車より少し上の我が家からも、海が見えたのですが、今は埋め立てて六甲アイランドが出来て、海が遠くなってしまいました。『縫い裁つ人』では、藤井が南洋裁店に向かう道を、正面に山が見えて後ろに海が見える住宅街の坂道をあちこちロケハンして決めたそうですが、電線が多いのがちょっと気になりました。
神戸には素敵な洋館がたくさんあるのですが、今回の南洋裁店に仕立てた川西市の旧平賀邸は知りませんでした。歴史的建造物として公開されているそうですので、次回、神戸に帰ったときに是非訪れてみようと思います。
懐かしい神戸の風景もさりながら、『縫い裁つ人』を観ていて思い出したのは、洋裁の得意な母がミシンを踏んでいた後姿。神戸の有名子供服メーカーの下請けをしていたこともあって、私たち姉妹の服もいつも母のお手製の可愛らしいものでした。
そして、父の背広も当時は仕立てていて、父に連れられていったテーラーが海岸通りにあったような気がして、父に尋ねたら、元町通りの風月堂の近くだったとのこと。その店のハンガーがまだあるはずと、今、探しています! (追伸: テーラー末広屋でした!)
神戸を舞台にした『少年H』でも、父親はテーラーの仕事をしていましたね。かつては仕立てるのが当たり前の世界だったのに、大量生産の既製服時代になって、丁寧な手仕事の出来る職人が少なくなったのは寂しいことです。
ミシンも、コンパクトなポータブルになりましたが、ちょうど昨日お会いした80歳のご婦人が「重くて机の上に持ち上げるのが大変で、昔のミシンはいつでも使えてよかったわ」とおっしゃっていました。私にいたっては、母が買ってくれたポータブルミシンの箱も開けていません・・・ 『繕い裁つ人』が手作りの良さを見直すきっかけになるといいなと思います。(咲)


2014年/日本/カラー/ビスタ/104分
配給:ギャガ
(c)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会
http://tsukuroi.gaga.ne.jp/

★2015年1月31日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ドラフト・デイ(原題:Draft Day)

draftday.jpg


監督・製作:アイヴァン・ライトマン
音楽:ジョン・デブニー
出演:ケヴィン・コスナー(サニー・ウィーバー・Jr.)、ジェニファー・ガーナー(アリ)、デニス・リアリー(ペン監督)、フランク・ランジェラ(フランク・モリーナ)、エレン・バーステイン(バーブ・ウィーバー)

サニー・ウィーバー・Jr.の長い1日が始まった。アメリカンフットボールのプロリーグ、NFLに所属するクリーブランド・ブラウンズのGM(ゼネラル・マネージャー)の彼は1年で1番重要な日を迎えていたのだ。ドラフト会議が始まるのは12時間後。名将と呼ばれた父が亡くなって、成績の振るわないチームを立て直さなければならない。誰もが期待している大物ルーキーの獲得が急務のサニーに、ライバル・チームのGMから足元を見たトレード話がもちかけられた。応じた結果、オーナーから、監督から、次々と電話や要求が入ってくる。しかも、実の母親までが彼をかき乱し、時間は容赦なく進んでいく。ますます追い詰められていくサニーが下した決断は?

この映画で初めてNFL(ナショナルフットボールリーグ)のドラフト会議を知りました。日本でもプロ野球のドラフトは話題になりますが、方法が全く違うんですね。お金のある大きなチームが有利とは言えないこと。当日にどんでんがえしも「あり」なこと。それはひとえにGM(ゼネラルマネージャー)の知恵を総動員した駆け引きによること。もっといろいろ複雑に絡んでくるのでしょうが、とりあえず↓をおさえておきましょう。

ドラフト会議3つのポイント
◎指名順は前年のレギュラーシーズンの成績が悪かった順
◎指名権のトレードができる
◎指名をするための持ち時間は「わずか10分間」


銃撃戦やカーチェイスや殺人事件がなくてもたっぷりとスリルが味わえる作品です。(白)


2014年/アメリカ/カラー/シネスコ/110分
配給:キノフィルムズ
(c)2014 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
http://draft-movie.com/

★2015年1月30日(金)、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月29日

激戦 ハート・オブ・ファイト(原題:激戦 Unbeatable)

gekisen.JPG

監督・原案:ダンテ・ラム
出演:ニック・チョン(ファイ)、エディ・ポン(スーチー)、メイ・ティン(クワン)、ワン・バオ(チャ)、クリスタル・リー(シウタン)

ボクシング界でチャンピオンまで上り詰めながら、八百長に関与したと栄光の座から転落したファイ。借金取りに追われた挙句マカオへと逃げ、ジムの下働きにありついた。ファイが間借りしているのは、娘と2人暮らしのクワンの家。クワンは不注意から幼い息子を亡くし、夫から捨てられて心身が不安定になった女だった。小学生のシウタンはそんな母親を支えて暮らしている。日雇いのスーチーは元は資産家の御曹司だったが、父が破産して激変した生活から抜け出そうともがいている。MMM(総合格闘技)の高額な賞金を知ったスーチーは、再起をかけようとファイの働くジムを訪れる。

心も暮らしもどん底のファイとクワンとスーチーの3人。這い上がろうとするスーチーに手を貸したファイも、激しい特訓をしながら甦っていく。心が壊れたままに見えたクワンも、娘が懐くファイに信頼を寄せ、わずかずつ笑顔を取り戻す…と話は進み、お約束のように試練がやってきます。
ダンテ・ラム監督といえば警察・黒社会・銃撃・アクションと浮かんできますが、この作品は人間ドラマに重きが置かれています。それに加えてニック・チョンとエディ・ポンの鍛え上げた身体と、特訓を重ねたという格闘技に目を見張りました。
2013年の東京国際映画祭でいちはやく上映、公開までしばらくかかってしまいましたが忘れっぽい筆者にも強い印象を残しています。香港でも大ヒットし、「香港電影金像奨」ではニック・チョンが主演男優賞を受賞しています。授賞式の記事はこちら。(白)

大規模カジノや高層ビルが林立して、すっかり様相の変わってしまったマカオですが、ファイが身を寄せたアパートは、古びた一角。椰子の木並木のある昔ながらの面影を残す海沿いをジョギングしている場面もありました。
ボクシングや総合格闘技ときいて、ちょっと引いてしまったのですが、ニック・チョンが金像奨で主演男優賞を取ったとあっては逃せない!と観てみました。心に傷を負った男二人と母娘が心を通い合わせていく素敵な物語でした。サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」をポーランドのアニア・ダブロウスカがカヴァーした曲がしみじみと心に響きます。格闘技が苦手な方にもお勧めです。(咲)


2013年/中国・香港/カラー/116分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ、ブロードメディア・スタジオ
(C)2013 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.
http://gekisen-movie.jp/

★2015年1月24日(土)より新宿武蔵野館ほかにて新春第2弾ロードショー
posted by shiraishi at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(原題:What We Do in the Shadows)

sheahousevanpaia.jpg

監督・脚本:タイカ・ワイティティ、ジェマイン・クレメント
出演:タイカ・ワイティティ(ヴィアゴ)、ジェマイン・クレメント(ヴラド)、ジョナサン・ブローディー(コン)、コリ・ゴンザレス=マクエル(ニック)、スチュー・ラザフォード(スチュー)

ニュージーランの首都ウェリントンで共同生活を送っている4人の男たち。昼間は動かずに夜になると元気一杯で活動する。そう、彼らは現代のヴァンパイアなのだ!ヴィアゴ(379歳)、ディーコン(183歳)、ヴラド(862歳)、ピーター(8000歳)。ゆるく楽しく仲良く暮らしていたある晩、ピーターが大学生のニックをうっかり甘噛みしてしまい、ヴァンパイアに変えてしまった!
ヴァンパイアになりたてのニックは何かと問題の種を蒔く。親友のスチュー(人間)をシェアハウスに招き入れてしまった。ホッペが赤くて血色の良いスチューに思わず喉がごっくん…の4人、さてど〜なる?!

ドキュメンタリー風の作りです。ヴィアゴがこちらに向かって話しかけ、「お宅拝見」番組のように、各部屋とシェア友達を紹介していきます。この人懐こい舌足らずなヴィアゴはちょうど中間管理職のような立場で、年上と年下のパイプ役をつとめているようす。個性的という言葉でおさまらない濃い面々とパロディ満載のストーリー。仲良くシェア?というかミックス?されたゆるさとぶっ飛び加減に大笑いしました。監督・脚本を兼ねているタイカ・ワイティティとジェマイン・クレメントのほかの作品も観たくなります。「なにこれ?!」と観始めて、観終わると大好きになっていることうけあい。各地の映画祭で観客賞を受賞しています。(白)

2014年/ニュージーランド/カラー//85分
配給:松竹メディア事業部
(C)Shadow Pictures Ltd MMXIV
http://www.shochiku.co.jp/swv/

★2015年1月24日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 23:06| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュージーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

おみおくりの作法(原題:STILL LIFE)

omiokuri.jpg

監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ
撮影:ステファーノ・ファリベーネ
音楽:レイチェル・ポートマン
出演:エディ・マーサン(ジョン・メイ)、ジョアンヌ・フロガット(ケリー)、カレン・ドルーリー(メアリー)、アンドリュー・バカン(プラチェット氏)

ロンドンのケニントン地区で公務員として働くジョン・メイは44歳で独身。毎日決まった食事をとり、同じ道筋を役所に向かい、同じ手順で仕事をする。ジョン・メイの仕事は、孤独死した人の葬儀を執り行うこと。縁者を探して連絡をとっても、殆どの人はやってこない。たった一人で遺品の中から生前好きだったものやエピソードを探し、弔辞を書き、音楽を選んで旅立ちを見送る。長い間誠実に続けてきたのに、突如クビになってしまった。君のやり方は金と時間がかかりすぎる、と。最後の案件は、真向かいのアパートに住むアル中の男性ビリー・ストークだった。酒ビンだらけの乱雑な部屋で見つけた古いアルバムを手がかりに、ジョン・メイはビリーの足跡を辿る旅に出る。

ジョン・メイを演じるエディ・マーサンはよく脇役で見かける俳優さんです。地味ですが確かな演技力で、作品を支えるタイプの人。ジェームス・マカヴォイが最低な刑事を演じたクライム・コメディ(あまりの黒さに笑えませんでした)『フィルス』で、人の良い会計士役。ジョアンヌ・フロガットとそちらでも共演しています。
この作品では几帳面で寡黙な公務員を演じてよく似合います。あの部屋や机の上、食事のシンプルなことと言ったら!そんなジョン・メイがビリーの関係者を探すために、今までと全く違う毎日を送り表情も変化していきます。ビリーの娘ケリーをようやく見つけ出し、いつもの生真面目な顔が笑顔に変わるのですが・・・。
ジョン・メイが大切にしているアルバムの写真は、実際に一人で亡くなった方々のものだそうです。屈託のない笑顔の写真はその人が確かにいた証しでした。思わず自分の来し方行く末を思いました。生まれてくれば誰でもその旅を終える日がやってきます。生まれたときと一緒で自分では決められません。でもその途中をどんな日々にするかは自分次第。わが町にジョン・メイはいませんが、誠実に生きていけば、誰かが別れを惜しんで見送ってくれるはず。(白)


2013年/イギリス・イタリア合作/カラー/ビスタ/91分
配給:ビターズ・エンド
(c)Exponential (Still Life) Limited 2012
http://www.bitters.co.jp/omiokuri/

★2015年1月24日(土)シネスイッチ銀座ほかロードショー
posted by shiraishi at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする