2014年05月25日
ポリス・ストーリー レジェンド(原題:警察故事2013 Police Story)
監督・脚本・編集:ディン・シェン
アクション監督:ヘ・ジュン
キャスト:ジャッキー・チェン(ジョン・ウェン)、リウ・イエ(ウー・ジアン)、ジン・ティエン(ミャオ)、グーリー・ナーザー(シャオウェイ)、リュウ・ハイロン(ファイター)、ジョウ・シャオオウ(ウェイ・シャオフー)、ユー・ロングァン(隊長)
ジョン・ウェン刑事は半年振りに一人娘ミャオに会った。待ち合わせた巨大なナイトクラブ「ウー・バー」のオーナーのウー・ジアンと結婚したいというのだ。仕事に追われ、家庭を2の次にしていたジョンをミャオは許せず、ことさら反抗的になっている。
娘との間が持てず、バーの中を見ていたジョンは、急に何者かに襲われ気を失ってしまう。気がつくと出入り口が封鎖され、ジョン親子を含めた十数人の客が檻のような囲いに閉じ込められていた。しかもあちこちに爆弾がしかけられ、警察もうかつに手が出せない。これはウーが巧妙に仕組んだ籠城事件だった。ウーの目的は何なのか?
冒頭シーンが、チラシ画像の「涙目で銃をこめかみに当てているジャッキー」のアップです。何が起こるの?とくいつくように観てしまいました。
『ポリス・ストーリー』第1弾が30年前(今観ても面白いです!)、香港のアクションを牽引してきたジャッキーも今年60歳になりました。アクションはこの前の『ライジング・ドラゴン』が最後、と言ってなかったっけ?と思いつつ、娘を思う父の心情がにじみ出るジャッキーに、全部封印しないでアクションもできるスターでいて、と応援したくなります。悪役のリウ・イエが新鮮。猫型少女のジン・ティエンも可愛いです。
監督は『ラスト・ソルジャー』でジャッキーが抜擢したディン・シェン。アクション監督が成家班のヘ・ジュン。ナイト・クラブでのバトルが多いですが、アクションのためのような作りなので(?)飽きさせません。トンネルだけは無駄に見えましたが。(白)
2013年/中国/カラー/108分/シネスコ
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)2013 Jackie & JJ Productions Limited, Wanda Media Company Limited and Starlit HK International Media Company Limited All rights reserved
★6月6日(金)TOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー
どうしても触れたくない
監督:天野千尋
原作:ヨネダコウ(大洋図書)
脚本:高橋ナツコ
キャスト:米原幸佑(嶋俊亜紀)、谷口賢志(外川陽介)、富田翔(小野田良)
大手の会社から転職した嶋は、出社した初日にエレベーターで酒臭い大柄な男と一緒になった。
彼は上司になる外川。その夜の歓迎会で前の会社を辞めた理由を聞かれ、返事につまった嶋に助け舟を出してくれる。一見粗野に見えて、こまやかな気遣いをする外川に嶋はひかれていくが、また傷つくのが怖くて素直になれない。
監督は2012年の「したまちコメディ映画祭in台東」で、『フィガロの告白』を発表。グランプリと観客賞を獲得した天野千尋。受賞作は4人の男子中学生たちが初々しくて可愛さ満点、短編ながらもしっかりと構築されていた作品でした。
初長編デビューとなったこの作品は、人気のBL(ボーイズラブ)コミックの映画化。女性が描く男子の恋愛ものはどちらも美形ですが、これも例にもれず。米原くんは岡田准一くんにちょっと似ていて、谷口くんは戦隊モノでデビューした長身のさわやか青年。舞台でも映えそうな俳優さんです。(白)
(C)2014ヨネダコウ・大洋図書/「どうしても触れたくない」製作委員会
2014年/日本/カラー/84分
配給:日本出版販売
http://www.doushitemo.com/
★5月31日(土)よりシアターイメージフォーラムにてレイトショー
ミッション:15(原題:Event 15)
監督マシュー・トンプソン
キャスト:ジェニファー・モリソン(ホワイト大尉)、ジョシュ・スチュワート(オールズマン軍曹)、スティーブン・ライダー(ディエゴ上等兵)
ワシントンの米軍医療施設では、多くの帰還兵がPTSD(=心的外傷後ストレス障害)の治療のためカウンセリングを受けている。アフガニスタンで敵の拷問を受けたシングルマザーのホワイト大尉は、日常生活に戻った今も出会う人々の死ぬ様子が目に浮かんでしまう。上官の命令にそむき女性と子どもしかいない施設を攻撃したオールズマン軍曹は、薬物中毒の傾向があり女性蔑視の言葉を吐く。ディエゴ上等兵は、敵の急襲に遭った際仲間を助けられなかったことを悔やみ、戦場の光景のフラッシュバックに悩んでいる。この3人が同じエレベーターに乗り合わせたが、下降中突然停止し外部と連絡がつかなくなる。ホワイトはスマートフォンで「ワシントンが攻撃された」という驚愕のニュースを目にする。
エレベーターに閉じ込められた3者3様の行動。それぞれに抱えたトラウマが異常な事態の中で増幅し、表面に現れてきます。
この緊迫した状況が実は軍による極秘の心理実験なのだ、と途中で観客には種明かしされ、仕掛けた者と仕掛けられた3人を交互に観ることになります。つくづく軍(国家)とは非情なものだと憤慨。ほぼエレベーター内で進む息詰る展開にドキドキさせられました。3人のキャラだてが良かったです。ジェニファー・モリソンはスタートレック最新作で、カークの母親役で出ていたらしいのですが、記憶に残っておらず。子どものために生き延びようとするこのホワイト大尉が似合っていました。(白)
2013年/イギリス・アメリカ合作/カラー/85分
配給:プレシディオ
(C)Event 15 AG / Millbrook Pictures 2013
http://mission15.jp/
★5月31日(土)よりヒューマントラスト渋谷他全国順次ロードショー
美しい絵の崩壊(原題:Two Mothers)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
脚本:クリストファー・ハンプトン
キャスト:ナオミ・ワッツ(リル)、ロビン・ライト(ロズ)、ゼイビア・サミュエル(イアン)、ジェームズ・フレッシュビル(トム)、ベン・メンデルソーン(ハロルド)
ロズとリルは幼いときからの親友。それぞれ伴侶を得た二人は同じ入り江を望む近所で暮らし、同い年の息子を授かった。ロズの息子トムと、リルの息子イアンも母達と同じように親友となり、美しい若者に成長する。早くに父を亡くしたイアンは、家族ぐるみでつきあううちにロズに強い恋心を抱くようになる。
ロズの夫ハロルドはシドニーの大学で講義をすることになり、トムの教育のためにも引越しをしようと提案する。入り江の暮らしとギャラリーの仕事から離れがたいロズは、いったん夫だけをシドニーに送り出すことにした。ある晩悪酔いしたトムの介抱のため泊まったイアンは、ロズへの気持ちが抑え切れずついに一線を越えてしまう。
美しい母親とその息子たち。海辺で戯れる4人はまるで絵のようなのですが、いつしか禁断の愛へと突き進んでしまいます。若い男の子はともかく、母親がそれではいけません。しかし愛は理性を吹き飛ばし、あ〜らら〜という展開に。ついていけるやいなや。
『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)を送り出したアンヌ・フォンテーヌ監督が切り取るシーンは、ファッション雑誌のグラビアのようです。それに加えて俳優達の品が、猥雑なスキャンダルにならずにとどめている気がします。一番幸せになったのは、1人放り出されたロズの夫ハロルドでした。(白)
配給:トランスフォーマー
2013年/カラー/オーストラリア・フランス合作/111分/シネスコ
2012 HOPSCOTCH FEATURES PTY LTD, THE GRANDMOTHERS PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SCREEN NSW, CINE-@, MON VOISIN PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA.
★5月31日(土)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、横浜ブルク13ほかにてロードショー
六月燈の三姉妹
監督:佐々部清
脚本:水谷龍二
キャスト:吹石一恵(平川奈美江)、徳永えり(中薗栄)、吉田羊(中薗静江)、津田寛治(平川徹)、西田聖志郎(有馬眞平)
故郷鹿児島に、東京から奈美江が帰ってくる。ショッピングセンターの進出で、青息吐息の商店街にある古い和菓子屋のとら屋が実家だ。バツ2の母、バツ1で出戻った姉の静江、2番目の夫で、離婚後も職人として通ってくる眞平の三人がきりもりしている。母と眞平の間に生まれた末っ子の栄は、職場の上司と不倫中で奈美江が戻るなら自分が家を出ようと思っている。
鹿児島の夏祭り「六月燈」が近づき、一家はこの機会に新作の和菓子を作ろうと苦心している。猫の手も借りたいときに離婚調停中の奈美江の夫、徹がよりを戻したいとやって来た。
地方を舞台にしていても、みんなが土地の言葉を話している作品は少ないですが、これは鹿児島弁がきちんと使われています。鹿児島出身の西田聖志郎(眞平役)が企画し、2009年から2011年にかけて上演された舞台の映画化だと知って納得。ときどきわからない言葉が出てきますが、離婚した父について出て、東京育ちの次女の奈美江が、ちゃんと意味を聞いてくれます(笑)。鹿児島弁は難しい。
佐々部監督が予算の少なさに驚いたそうですが、その分地元の方々がおおいに手助けし、後押しをしたのではないでしょうか。そんな暖かさに満ちたほっこり気分になる人情ドラマです。祭りの舞台で浴衣姿の三人姉妹が、キャンディーズのヒット曲を歌い踊るところは必見。(白)
2013年/日本/カラー/104分/ビスタサイズ
配給:ピーズ・インターナショナル
http://6gatsudo.jp/
(C)「六月燈の三姉妹」製作委員会
★5月31日(土)TOHOシネマズ日本橋、シネマート六本木ほか全国ロードショー
いのちのコール ミセスインガを知っていますか
監督:蛯原やすゆき
出演:安田美沙子、室井滋、山口賢貴、国広富之、筒井真理子、榊英雄
横浜・金沢八景。結婚を控えた高校教師の河原たまき(安田美沙子)は婚約者の大島高志(山口賢貴)に手伝ってもらって引っ越し作業を進めていた。ラジオからは、地元FM局の番組「サンデイ ジェット・ストリーム」で、DJ杉田マユミ(室井滋)のトークの後、リクエスト曲「知っていますか」が流れてくる。幸せいっぱいのたまきだったが、ある日、下腹部に激しい痛みを覚えて婦人科を訪れる。高志と共に聞いた検査結果は、子宮頸がん。子宮と卵巣の全摘出手術が必要で、子どもを産むのは無理だといわれてしまう。
2年後、25年続いた「サンデイ ジェット・ストリーム」が最後の放送日を迎えている。万感の思いで準備を進めるスタッフたち。DJのマユミは、いつもと同じく明るくいこうとさばさばしている。リスナーたちから最終回を惜しむ声が寄せられる中、「インガ」と名乗る女性から自殺をほのめかすような電話がかかってくる。やりとりの中から、子宮頸がんで体調を崩し、結婚も仕事もやめたことが判明する。プロデューサーの青山(国広富之)は、最終回の段どり通り進めようとやきもきするが、マユミはインガに自殺を思いとどまらせようと電話をなんとか切らせないように話しかける。ようやくたまきが「知ってますか」を聴きたいとリクエストする。引っ越しの日に婚約者だった高志と一緒に聴いていた曲だ。そして、高志は車の中で、このやりとりを聞いていた・・・
本作を企画した渡邉眞弓さんは、東映映画のスクリプターや大手広告代理店のコピーライターを経て、オリジナル書籍の企画・制作などを手がける会社を経営していたが、子宮頸がんに罹る。自らの闘病生活を綴った手記を映画化するため奔走し、その企画に賛同した蝦原やすゆき監督、小池和洋プロデューサーにより映画化が実現したが、映画完成を待たずに2012年4月に他界されました。
プロデューサーが最終回のゲストのグループの名前を何度も言い間違え、最後には彼ら自ら間違った名前を名乗ってしまうなど、笑いを誘う場面もあって、深刻な内容を暗くならないように描いています。室井滋さん演じるマユミも、常に明るく振る舞います。若い人たちに子宮頸がんの予防を啓蒙する素敵な映画に仕上がっています。
シネスイッチ銀座では、女子高生は無料で鑑賞できることになりましたが、予防には男性の意識も必要。男子高校生にこそ是非無料で鑑賞してもらいたい作品です。(咲)
制作・配給:リトルバード
2013年/86分/カラー/ビスタ/DCP
公式サイト:http://www.mrs-inga.com/
★2014年6月7日(土)シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開
罪の手ざわり 原題:天注定 英題:A TOUCH OF SIN
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・ウー、ワン・バオチャン、ルオ・ランシャン
村の共同所有だった炭鉱の利益を独占してしまった同級生の実業家ジャオを訴えると怒る山西省・烏金山(ウージンシャン)の炭鉱夫ダーハイ。ある日、ジャオの手下に襲われたダーハイは、猟銃を手に役人たちのもとへ向かう。
出稼ぎと称して各地で強盗を繰り返し、重慶に残した妻と子に大金を送るチョウ。正月と母親の誕生祝いを兼ねて重慶に帰ってくる。山西省の山奥で自分を襲ってきた3人を殺してしまったことが頭をよぎる。
湖北省・宜昌(イーチャン)、妻帯者の恋人との関係を絶つべきか悩むシャオユー。風俗サウナで受付係として働く彼女は、ある日、男たちに執拗に相手をしろと言われ、思わず持っていたナイフで男を刺してしまう。
広東省の縫製工場で働く青年シャオホイは同僚を怪我させてしまい、高給を稼ごうと転職したナイトクラブでホステスの女性に恋をする。訳ありの彼女との恋に破れ、台湾企業に転職するが低賃金の上、給料日前に親から仕送りの督促が入る。そこへ縫製工場で怪我をさせた同僚が現れる・・・
山西省、重慶市、湖北省、広東省と、広い中国の離れた地で実際に起こった誰もが知る重罪事件を、ジャ・ジャンクー監督は登場人物をみごとに交差させて一つの映画として紡いでいます。
初監督作品『一瞬の夢』以来、現代社会の厳しさの中で生きる庶民の姿を描いてきたジャ・ジャンクー。本作も、その人の置かれた環境が罪を生み出すことをずっしり感じさせてくれました。
『罪の手ざわり』の試写を観たのは、ワン・ビン監督の『収容病棟』を観た直後でした。雲南省の精神病院に収容されている患者たちの姿を捉えたドキュメンタリー。精神異常として収容されている患者の中には、政治的な陳情行為をした人や、「一人っ子政策」に違反した人、宗教的に熱心すぎる人などもいました。
生まれながらの悪人はいません。社会の歪が、罪人や精神異常者を排出していることを強く感じた一日でした。もし私が中国で生まれていたら、とても生き抜けないと思いましたが、きっとどんな環境でも人間はなんとか生きていくのでしょうね。そこでいかにドロップアウトしないで済むかでしょうか・・・ (咲)
第66回カンヌ国際映画祭脚本賞 受賞
2013/中国=日本/129分/R15+
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tumi
2014/5/31(土)より Bunkamuraル・ シネマほか全国順次ロードショー