共同監督:クリスティン・シン、匿名希望
1965年9月30日深夜、インドネシア・スカルノ大統領(当時)の親衛隊の一部が陸軍トップの6人将軍を誘拐・殺害し、革命評議会を設立したが直ちに粉砕される。「9・30事件」と呼ばれ、国際関係にも大きな変化をもたらしたクーデター未遂事件である。その真相は明らかになっておらず、陸軍内部の権力争いという説も強い。当時クーデター部隊を粉砕し事態の収拾にあたり、後に第2代大統領となったスハルト少将らは、背後で事件を操っていたのは共産党だとして非難。その後の1〜2年間にインドネシア各地で、100万とも200万ともいわれる人たちを“共産党関係者”だとして虐殺した。それに対して、日本や西側諸国は何ら批判の声を上げることはなかった。
オッペンハイマー監督は、当初、虐殺被害者を取材したが、妨害にあって断念。逆に加害者に目を向ける。北スマトラの州都メダンで、虐殺を実行した者たちを紹介してもらい取材。誇らしげに当時のことを笑顔で自慢する加害者たちに驚き、その深層心理を探るべく、監督は彼らに殺人をどのように行ったか、自由な形で再現してもらう。さらに、撮った映像を本人たちに見せ、そのリアクションも映し出している。
特別記事 『アクト・オブ・キリング』ジョシュア・オッペンハイマー監督来日記者会見
http://www.cinemajournal.net/special/2014/aok/index.html
この映画を観て思い出したのが、2006年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で観て、強烈な印象を受けたリリ・リザ監督の『GIE』という作品。「1960年代に激動のインドネシアで、中道を保って学生運動をしたスー・ホックギーの半生を鮮烈に描いた作品」と、私自身が書いているのですが、激動の政治の背景をちゃんと理解していたわけではありませんでした。『GIE』の主人公スー・ホックギーは、中国系ですが、共産主義者として虐殺されたのではなく、登山中に命を落とした人物。ですが、映画の中で共産主義者だと断定された人たちが弾圧されたことが描かれていました。
また、『GIE』でスー・ホックギーを演じたニコラス・サプトラが、『ビューティフル・デイズ』で演じたランガという詩が好きな青年も、父親がスハルト時代に共産主義者の疑いをかけられた知識人という設定でした。
「赤狩り」という名の下、世界各地で共産主義者(および、共産主義者であると勝手に断定された人たち)が弾圧されてきましたが、共産主義の是非というより、邪魔者を排する都合のいい理由なのでしょう。本作で驚いたのは、権力者からの命令に応じて弾圧する側に立った末端の人たちが英雄気取りで今も暮らしている姿でした。上のお墨付きであれば、殺人行為も自分の気持ちの中で許されるというのが、とても理解できないことでした。日本で、兵隊として戦争に行かされ、殺人を行わざるをえなかった人たちも大勢いると思います。でも、その人たちが実際の殺人行為を語る姿を見たことはほとんどありません。自分の胸の奥深くにしまっておくのが、常ではないでしょうか?
と、ここまで書いて、はたと気が付いたのは、世界から戦争がいつまでたってもなくならないのは、戦争を起こす張本人の権力者が先鋒に立って殺人行為を犯すわけでないからかと。洗脳されたり、強制されたりして、加害者となる人たちも戦争の犠牲者であることには違いないのですが、本作をみると、それにしても・・・と複雑な思いが消えません。
また、本作のエンドロールのクレジットには、数多くの“ANONYMOUS”(匿名希望)の文字。インドネシアでまだわだかまりが消えていないことをまざまざと感じました。(咲)
2012年/デンマーク・ノルウェー・イギリス合作/インドネシア誤/121分/ビスタ/カラー/DCP/5.1ch
配給:トランスフォーマー
公式サイト:http://aok-movie.com/
★2014年4月12日より渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開
ラベル:インドネシア