出演:ベレニス・ベジョ(『アーティスト』)、タハール・ラヒム(『預言者』『パリ、ただよう花』)、アリ・モッサファ
雨のパリ。テヘランから4年ぶりに帰ってきた夫アーマドを空港で出迎える妻マリー=アンヌ。「娘たちには言ってない。前に直前に帰るのをやめたから。ホテルも予約してない」と妻。実はこの再会は離婚手続きをする為。かつて共に暮らした家に着くと、見知らぬ男の子が下の娘と遊んでいる。その男の子の父親と既に一緒に住んでいることが判明する。マリー=アンヌはメールで男がいることを知らせたというが、アーマドには読んだ記憶がない。
長女リュシーはマリー=アンヌの連れ子だが、育ち盛りを共に暮らしたアーマドになついている。リュシーは、母親が新たな男サミールと暮らし始めたのが不満だ。「奥さんもいるし、昏睡状態なのに」という。マリー=アンヌは薬局に勤めていて、妻のうつ病の薬を買いにきたサミールと知り合ったのだ。クリーニング屋を営むサミールは、客とのトラブルで妻が自殺を図ったという。女店員に事情を聞くと、不法移民の彼女は、浮気の相手が自分だと勘違いして自殺を図ったのだという。さらにリュシーが自殺は自分のせいだといい出す・・・

(C) Memento Films Production - France 3 Cinema - Bim Distribuzione - Alvy Distribution - CN3 Productions 2013
『別離』が日本でもヒットしたアスガー・ファルハディ監督が、初めてイランを飛び出し、パリを舞台に描いた女と男の物語。『預言者』や『パリ、ただよう花』のタハール・ラヒムを起用したと聞いて、早く観たいと思っていた作品。公開が決まって嬉しい。ちなみに、夫アーマドを演じたアリ・モッサファは、『別離』の妻役レイラ・ハタミの実の夫。フランス語が堪能なことから起用したという。
『別離』同様、よく書き込まれた脚本。結局、過去の行方がどうなるのかは観客にゆだねられたまま映画は終った。またまたファルハディ監督にしてやられた。
夫が、4年前にイランに帰った理由をいいかけるが、妻は、「過去は振り返らない」とぴしゃりとさえぎる。皆が過去にこだわる中で、彼女だけは常に前を向いている。新しい男との子どもまで妊娠して、もう前に進むしかないのだけど、この潔さは見習いたい。
気の向くまま男を変える母親に振り回される子どもたちが、ちょっと気の毒。リュシーが、「お母さんの好みの男は似ている」という場面があったけど、アラブ系のタハール・ラヒムと、イラン人のアリ・モッサファ、確かに似ていて、ふっとした拍子に、今のはどっち?と思うところもあった。(タハール・ラヒムの方が美男なのに!?)
そして、舞台はフランスだけど、イランを感じさせてくれる場面もちりばめられている。
まずは、花束。イランの空港では男性も女性も花束を手に出迎える人が多い。空港で再会し、車に乗り込んだ時に、アーマドが花束を後ろの座席に置く場面があった。あ〜やっぱりイラン人!と思った瞬間。再会した時に花束を持っていた記憶がないけれど、いったいどっちが用意した花束?
イラン人の友人がやっているカフェレストランがあって、そこは、アーマドがペルシャ語で話せる場所。「タジュリシュ(テヘラン北部の地名)行きのバス停はどこ?」なんて、久しぶりに会う友人に背後から声をかけている。友人の奥さんには、「ヴァレリア ジャン(ヴァレリアちゃん)、元気? 別れないね? ぼくたちとは違う。共通点があるもの。国旗の色が一緒」とペルシャ語で話しかけている。国旗の色が同じというから、奥さんはイタリア人らしい。
長年共に過ごした娘たちにも、時折ペルシャ語で話しかけている。
イランの家庭料理の定番「ゴルメサブジー」という煮込みを子どもたちによそうアーマド。サミールの息子ファッドに、「イラン娘と一緒になる?」といってみる。「イラン娘って?」と聞かれて、ちょっと両手をあげて踊るフリをするアーマド。
ゴルメサブジーを食べるマリー=アンヌに、「スプーンで食べろ」とスプーンを渡す。イラン人は、フォークとスプーンで食事するのだ。
先日、イラン人の友人がイランで買ってきたDVDを見せてくれた。彼は、ペルシャ語吹き替えで観たので、フランス語部分とペルシャ語部分があるのに気づいてなかった。ペルシャ語字幕版で観てみたら、ペルシャ語で話しているところには当然ながら字幕がなかった!
と、こんな具合にイラン好きにも楽しめる映画になっている。
登場人物一人一人の置かれた立場による「今」の捉え方が違うのも楽しみながら、謎解きをぜひどうぞ! (咲)
2013年/仏・伊/130分/仏語・ペルシャ語/ビスタ/カラー/ビスタサイズ
配給:ドマ、スターサンズ
公式サイト:http://www.thepast-movie.jp
★2014年4月19日(土)よりBunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次公開
2009年9月、アジアフォーカス・福岡国際映画祭で『彼女が消えた浜辺』が『アバウト・エリ』のタイトルで上映された折に来日したアスガー・ファルハディ監督にお話を伺いました。
作品作りへの思いの根底にあるものは、今も同じだなと感じます。
アスガー・ファルハディ監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/about_elly/index.html
ラベル:イラン