監督:ジェイムス・ロン、リン・リー
2008年、カンボジアの地雷撤去活動家を描いた映画『アキ・ラーの少年たち』がピョンヤン国際映画祭に招かれ、初めて北朝鮮を訪れたジェイムス・ロン監督とリン・リー監督。映画好きの金正日の庇護を受けた多くの映画人が将軍様を称え、国家思想を伝える役割を果たしたいと笑顔で語る姿に驚いた二人。「北朝鮮映画」をテーマに映画を撮ろうと、交渉すること8か月。無数のメールのやりとりの後、ようやく北朝鮮当局から撮影許可を獲得する。条件は二つ。
1.外出する際は、必ず案内員が同行する。
2.撮影したものは、その日毎に検閲に出す。
2009年、撮影開始。取材を申し入れたピョンヤン演劇映画大学は改修中を理由に内部の撮影許可が出ず、俳優の卵である学生二人を紹介される。科学者の娘と、映画監督と女優の息子である二人は、何不自由なく育った特権階級。「将軍様に喜びを捧げる俳優になりたい」と語る。
朝鮮芸術映画撮影所。1960年代の日本、1950年代の南朝鮮(韓国)、そして1930年代の中国の町の広大なセット。「将軍様のお陰で海外ロケの必要がない」と豪快に笑うピョ・グァン監督。日本兵に武器を捨てろと命令され憤慨する場面の撮影で、エキストラの朝鮮人民軍の兵士たちに、「笑うな!」と怒鳴る。戦争を知らない若者たちなのだ。監督の心には日本植民地時代に父母が受けた苦難の思いがよぎる・・・
『北朝鮮強制収容所に生まれて』(3月1日りユーロスペースほか全国順次公開)と比べてみると、あまりに両極端で、同じ国のことなのかと興味深い。2年間に4度にわたって撮影した本作、真実の断面には違いない。
本作で取材した北朝鮮の人たちは、「すべては将軍様のため」と笑顔で語る。かたや、北朝鮮強制収容所の中で生まれ育った人たちは、拝む資格もないと将軍様の存在さえ知らされていない。笑顔で将軍様を讃える人たちは、収容所で生まれ育つ人たちがいることも知らされていないのだと思う。人間の運不運が、一握りの権力者に左右されるとは・・・ (咲)
配給:33 BLOCKS
2012年 / シンガポール/朝鮮語・日英字幕 / 93分
公式サイト:http://cinepara-pyongyang.com
★3月8日(土) シアター・イメージフォーラムにてロードショー! ほか全国順次公開