監督:ダニス・タノヴィッチ(『ノー・マンズ・ランド』)
出演:セナダ・アリマノヴィッチ、ナジフ・ムジチ
ボスニア・ヘルツェゴヴィナに住むロマのナジフと妻セナダ。二人の娘に恵まれ、貧しいながらも幸せな日々を送っていた。ある日、3人目を身籠っているセナダが腹痛に見舞われる。ナジフは車を借りてセナダを病院に連れていくが、5ヶ月の胎児がお腹の中で既に亡くなっていて、直ぐに手術しないと命に係わると診断される。鉄くずを拾って細々生計を立てているナジフは保険証もなく、手術代980マルク(約500ユーロ)はとても払えない額だ。分割払いでなんとか手術してくれないかと懇願するも、拒否されてしまう。ナジフは妻の命を救うことができるのだろうか・・・
家族を守るために、必死になって駆けずり回るナジフの姿に、なんとかしてあげて〜と心の中で叫んでいました。東京フィルメックスで上映された折に、実話に基づく話とは知っていたのですが、演じたのがまさにナジフさんたち一家そのものと後から知ってびっくり。手術を拒否した医師以外は、皆、実在の人たちが当時を再現して撮影に応じたそうです。なによりナジフさんの粗野だけど暖かい人柄に惹かれます。ベルリン国際映画祭で、みごと銀熊賞・主演男優賞を受賞。ナジフさんは地元のヒーローとなり、定職にも就いたそうです。奥さんのセナダさんも幼い二人の少女たちも、カメラを意識しない自然な演技。というか、普段の姿をそのまま見せています。
東京フィルメックスの上映後のQ&Aで、ダニス・タノヴィッチ監督は、「人間誰しも役者。例えばお母さんと恋人では接し方が違いますよね。人は常に演技してるといえます」と語りました。また、各国で差別を受けているロマの人たちですが、ユーゴスラビアから独立した新生ボスニア・ヘルツェゴヴィナでも、ロマの90%以上が正式雇用されず、その日暮らしの生活を送っているそうです。生きていくことは大変! それでも、ナジフさんたちの表情が柔らかいのは、家族の絆が強いからでしょうか。(咲)
2013年/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=フランス=スロベニア/74分/ビスタサイズ
配給:ビターズ・エンド
★2014年1月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次 ロードショー!