2013年09月09日

メキシカン・スーツケース(原題:THE MEXICAN SUITCASE)

メキシカン・スーツケース チラシ 2013年8月24日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

 監督・脚本:トリーシャ・ジフ

スペイン内戦時にロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモア“シム”の3のユダヤ人カメラマンが撮影した4500枚もの写真のネガが、メキシコで見つかった。内戦から70年もの時を経た2007年のことである。
撮影日時と場所を記録したネガからは、歴史が鮮明に蘇る。キャパたちが前線で危険と隣りあわせで撮った写真の数々。兵士だけでなく民間人もが内戦に翻弄されたことが克明に浮かび上がってくる。
それにしても、これら<メキシカン・スーツケース>と呼ばれる写真は、なぜメキシコに渡ったのか? メキシコ在住のトリーシャ・ジフ監督は、写真を保管していた人物の信用を得て、ロバート・キャパの弟であるコーネル・キャパが創設した国際写真センター(ICP・在ニューヨーク)に橋渡しする。そして、写真の辿った運命を映画化することを許される。 フランコ将軍の台頭で、祖国を捨てるしかなかった共和派の人々。ヨーロッパ各国が受け入れを拒む中、当時のメキシコ大統領が亡命希望者に手を差し伸べる。実に20万人ものスペイン人がメキシコに渡った。
実は、ジフ監督にとっても、スペイン内戦は人事ではない。彼女の息子の父親はスペインからの亡命者なのだ。亡命者の子孫は、メキシコで生まれた理由を知るべきだと監督は語る。
当時、スペインの人ならどの家族も内戦に巻き込まれた。右派も左派も心穏やかでなく、当事者たちは口をつぐむ。孫の世代が祖父の埋葬されているらしい墓地を掘り起こす姿が映し出される。まだ内戦の傷は癒えていないのだ。亡命者と同じ運命を辿ったネガは、当時を知る生存者も少なくなった今、歴史の真実を語りかけてくれる。


iメキシカン・スーツケース
(c) 212 Berlin/Mallerich Films Magnum Photos/International Center of Photography, NY


スペイン・メキシコ合作/2011年/86分/16:9/Color・B&W
配給:フルモテルモ×コピアポア・フィルム
公式サイト: http://www.m-s-capa.com/

 ロバート・キャパ、ゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモアの3人は、ハンガリー、ドイツ、ポーランドとそれぞれ出身地は違うが、パリで出会い、国を追われたユダヤ人という共通点で行動共にしたのが興味深い。ロバート・キャパとゲルダ・タローが恋人どうしだったのは有名だが、彼らの友人であるデヴィッド・シーモア“シム”のことは本作で初めて知った。シムは共和派の人たちがメキシコに向かう船に同乗して写真を撮っている。船の中での様子や、メキシコで岸壁にあふれんばかりの人が船を出迎えた様子も船の上からおさめている。歴史的瞬間がこうした写真家たちの自らの命も惜しまぬ行動のお陰で後世に残されていることをずっしりと感じさせてくれる一作である。(咲)
別のスタッフの感想
posted by staff at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする